コラム−1. ヘリコプタの正操縦士の席はなぜ右側?

 飛行機の正操縦士の座席は機首方向を向いて左側ですが、ヘリコプタでは右側です。これはヘリコプタ搭載護衛艦に着陸するとき、正操縦士は右斜め前方に護衛艦を見ながら接近して着艦するからで、目標を見やすいように右側に配置されています。

ヘリコプタの操縦席
コラム−2. ヘリコプタはなぜ胴体の上に大きなロータをもっている?

 航空機を垂直に離陸させるためにはロータ形式が最も効率的だからです。それに必要な最小パワーはロータ面の面積が大きいほど小さくなります。ちなみに、現時点の世界最大のヘリコプタはミルMi-26"ハロ"(ロータ直径が32m)で、自衛隊の最大のヘリコプタMH-53E(24m)のおよそ1.3倍の大きさです。

MH-53E
コラム−3. 航空機エンジンはどのように進化した?

 1903年に人類の動力初飛行を成功に導いたライト式液冷直列型レシプロエンジンは自重73kgで出力12馬力でした。30年後の1933年に開発が始まった国産の栄21型空冷星型レシプロエンジンは有名なゼロ戦に搭載され自重590kgで出力は1130馬力にもなりました。現代の航空機に採用されているジェットエンジンでは、国産のF−3はT−4練習機に搭載され自重わずか370kgで出力は1460馬力、ライセンス生産をしているF−100はF−15戦闘機に搭載され自重1460kgで出力は3万馬力以上を誇ります。出力を自重で割った値が大きくなるように発展してきたことが航空機エンジンの進化の歴史です。

F−3 ジェットエンジン
コラム−4. 大きな衛星を宇宙に運ぶには?

 ロケットに入りきらないような、大きな衛星を宇宙に運ぶには2つの方法があります。一つは、運べる大きさに分割して、宇宙で組み立てる方法です。例えば国際宇宙ステーションは、沢山のモジュールに分割して打ち上げ、宇宙空間で組み立てを行っています。 もう一つは、大きな部分をロケットに積めるように、小さくたたんでおいて、宇宙で広げる方法です。衛星に搭載された、大きなアンテナなどはこの方法で宇宙に運ばれます。

インフレータブルアンテナ
コラム−5. 軽くて丈夫な機体を作るには?

 飛行機や衛星などは、空中、宇宙で運用するため、軽くて丈夫な機体でなければなりません。そのような機体を作る方法として、”軽くて丈夫な材料を使う”、”軽くて丈夫な構造にする”があります。  軽くて丈夫な材料として、航空機や衛星ではジュラルミンなどのアルミニウム系の材料が多く使われてきました。近年では、より軽くて丈夫なCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの複合材料も広く使われてきています。  軽くて丈夫な構造としては、ハニカムサンドイッチなどがあります。これは蜂の巣形状(ハニカム)の部材に薄板(表皮)を貼った構造で、大変軽くて丈夫になります。 写真のサンドイッチパネルは320mm×150mm、高さ75mmのもので、重さは170gしかなく、単位面積当たりの重さが同じアルミニウム板に比べ10,000倍近い曲げ剛性(曲がりにくさ)を持っています。  このような工夫により、飛行機や衛星などの機体は軽量化されています。

ハニカムサンドイッチ構造
コラム−6. 飛行機の主翼の役割は?

 飛行機は空を飛行するために揚力を利用して自重を支えていますが、この揚力はほとんどが主翼によって発生しています。また主翼には大抵エルロンという可動部分が装備されており、飛行機の旋回運動なども司っています。搭乗の際に主翼を眺めていると旋回時などにエルロンが動くのが観察できます。また主翼内には燃料タンクが装備されている場合が多々あり、他にも離着陸性能を改善するフラップ、性能改善の役割をもつウイングレット、フラップとエルロンの機能を併せ持つフラッペロンなど様々な装備が組み込まれており、揚力発生の他にも様々な機能を担っています。
 ところで、人類初の動力飛行を達成したライトフライヤー号の主翼にはエルロンがなく、主翼全体をねじることで飛行機をコントロールしていました。この方式は操縦が困難であったことなどから早い時期に翼+可動部方式が主流になりましたが、近年では鳥のように翼型を飛行状態に適した形に随時変更し性能を改善するモーフィング翼という方式も提案されています。

旅客機主翼
コラム−7. 大気圏再突入時におこることは?

 再突入は熱的に非常に厳しい飛行です。地球への突入物体は非常に速い速度で大気に突入するため、その運動エネルギーは大気に伝わり周りの空気を高温に熱します。流れ星はこの高温のために、大抵は地上に到達する前に燃え尽きてしまいます。一方、スペースシャトルなどは燃え尽きてしまわぬように熱防御システム(TPS)が施されており、無事地球へ帰還できるようになっています。
 他にも、大気は突入物体からうけるエネルギーを支えきれず、空気を構成する気体分子が原子に分解したり、原子がイオンと電子に分解してしまいます。この現象をそれぞれ解離、電離といいますが、再突入機体の周りは電離による電子の雲に覆われてしまい通信が一時的にできなくなります。良く映画などでも描かれるこの現象をブラックアウトといいますが、現在はアンテナの位置調整や衛星とのリンクなどにより通信環境は改善することができます。

大気圏再突入軌道
コラム−8. ロケットとミサイルの違いは?

 どちらも固体や液体の燃料を使って飛翔することは同じです。一応、次のような定義になります。
  • ロケット :おおよそ垂直に上昇し弾道軌道を描くロケット推進の輸送手段。
  • ミサイル :推進力を持ち誘導される武器。
 水平離着陸方式の宇宙往還機スペースプレーンの構想もあるので、ロケットの定義に「垂直に」の一言が入っています。スペースプレーンがロケットエンジンを使う場合もあるのですが、ロケットとは見なされないようです。スペースシャトルはロケット風に打ち上げられ、飛行機風に滑空して帰還する、ということになります。実情として打上ロケットと大陸間弾道ミサイル(ICBM)が表裏一体の関係だったりすることもあり、ロケットとミサイルの厳密な分類は難しいです。

V-2
ロケットもミサイルもここからはじまりました。
コラム−9. がんばり屋の飛行船(風は大敵!?)

 飛行船はヘリコプターや飛行機などの重航空機とは異なり、空に浮くために、主に浮力を利用しています。浮力により空に浮かせるために、飛行船の質量は、その容積分の空気の質量とほぼ同じになっています。そのため、飛行船の周りの空気は、飛行船の運動を考える上で、無視できないほど大きな存在です。例えば、飛行船をどこかへ動かそうとすると、飛行船自身の質量に加えて、その周りの空気を動かすだけの力を必要とします。一方で、周りの空気が乱れているとき(風の強さや向きが変化するとき)は、風の向くままに簡単に動かされそうになります。したがって、一点に留まろうとする場合には、風に対抗して飛行船を引きとめようとする力が必要となります。
 重航空機は、地上ではエンジンを切ってお休みできますが、飛行船は、地上に降りてからも、風に飛ばされないよう、休みなく働くがんばり屋です。

従来よりも高い空に浮かぶ
新しいタイプの飛行船
(成層圏プラットフォーム)
<JAXA提供>
コラム−10. 全翼機の長所と短所は?

 全翼機の長所としては,尾翼や胴体が無い分,一般の飛行機よりも構造重量や空気抵抗が小さくなり,燃費が良くなることが挙げられます。この長所は古くから注目され,全翼機は1930年代には既に存在していました。また,尾翼や胴体の存在はレーダーの反射面積を大きくしてしまいますが,これらが無い全翼機においてはステルス性が高くなります。一方,短所は,設計上,姿勢の安定性を確保するのが一般の飛行機よりも難しいことです。一つの翼だけで空力的な安定性を得るために,従来から,後退角をつける,翼端部を捩り下げる,翼型をS字にするといった工夫がなされてきました。また,B-2爆撃機では,アクティブ制御技術によって常に舵面を動かすことで安定性が確保されています。
 上に述べた長所があるため,最近では,X-47に見られるように,無人軍用機の分野でも全翼機が採用されつつあります。さらに,近い将来,全翼の旅客機も登場するかもしれません。実際,厳密には全翼機ではありませんが,X-48という全翼に近いblended-wing- body型試験機の開発が進められています。ただし,実用化する上では,窓が少ないことにより旅客が感じる閉塞感を,解消する工夫が必要であるとも言われています。

B-2 爆撃機
(米国空軍のHPより)
コラム−11. 潮の満ち干と衛星軌道

 月の引力が、潮の満ち干をおこすことは多くの人がご存じでしょう。広い海水面を持ち上げるほどの力ですから、人工衛星の軌道に影響をおよぼしても不思議はありません。実際、月の引力は衛星の軌道に変化をあたえ、特に、軌道がよこたわる面の向きを変えていくように作用します。
 さて人工衛星のなかには、地球に対してぴたっと止まった状態で働いているものがあります。静止衛星といって、通信や気象などに使う大事な衛星です。ところが月の引力のせいで軌道が変わると、衛星は静止できなくなってしまう。そのため衛星はガスジェットを噴いて、軌道を元に戻しながら静止を保とうとつとめます。そしてガスを使い果たしたら、衛星の働きは終わる。静止衛星の寿命はふつう、ハードウェアの寿命よりも月の引力とたたかうガスの分量できまります。
 夜空に風情をそえる月ですが、人工衛星にはちょっと困った存在といえましょう。

潮の満ち干
コラム−12. ライト兄弟と風洞実験

 こちらの写真をご存じでしょうか?大変有名な写真でライト・フライヤー号が初飛行したときのものです.ライト兄弟の伝記はよく知られていますが,その中で,翼に作用する揚力や抵抗など空気力についての話をご存知でしょうか?
 ライト兄弟と,それ以前の研究者の違いの一つに空気力を緻密に測定したことがあります.彼らは最初に開発した機体が予想通りに飛行しなかったことを反省し,自分たちが参考にした当時としては最新だった翼の空力データに疑問を持つようになりました.そして,自分たちの力で信頼できるデータを得ることを決意し,空気の流れを発生させる風洞を自作しました.彼らは,この風洞を使って様々な翼の空気力を求めたのです.初飛行に成功したライト・フライヤー号(2号機)の開発には,この系統的な翼の空力データが生かされました.このような機体開発の方法は風洞実験と言われ,現在でも航空機開発で使われています.彼らの偉業は,動力付きの飛行機を開発しただけでなく,その開発手法も評価されています.

初飛行したライト・フライヤー号
1903年12月17日
(NASA Images Galleriesより)
コラム−13. 宇宙のゴミ問題

 宇宙開発・利用における大きな問題の一つに宇宙ゴミ(スペースデブリ)があります。宇宙ゴミは目的もなく軌道を周回している人工物のことで、使い終わった人工衛星やその破片、打ち上げに使ったロケットの上段などが含まれます。人類の宇宙開発と共にその数は増えており、現在は地上から確認できる10cm以上の大きさの物だけでも17、000個を超えています。  これらのゴミは地球の周りを "秒速" 数Kmの速度で移動しているため、それらのゴミに人工衛星等がぶつかると、例え小さいゴミでも大きな破壊を引き起こす危険があります。さらに、ぶつかった人工衛星が破損し利用できなくなると、これも宇宙ゴミとなってしまうため、宇宙ゴミがどんどん増える恐れもあります。  ひょっとすると、「広い宇宙空間なので宇宙ゴミとの衝突は気にしなくて良いのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、静止軌道のように、限られた有用性の高い軌道には人工衛星が多数存在している他、南北両極付近の様に多数の人工衛星が行き来する場所もあり、宇宙ゴミは大きな脅威となっています。  この様な宇宙のゴミ問題に対して、極力これ以上宇宙ごみを増やさないための国際的な取り決めがなされている他、地上からの宇宙ごみ監視体制の構築、既に宇宙にあるゴミを回収する方法の検討など、様々な取り組みが始まっています。


地球をとりまく宇宙ゴミのイメージ
(ESA、 Space in Images より)
コラム−14. 大きな宇宙構造物と折り紙

 人工衛星・探査機の中には、太陽電池やソーラーセイルの様に、薄くて大きな膜面を利用するものがあります。そのような大きな構造物を宇宙に打ち上げる方法として、小さくたたんでおいて、宇宙で広げる“展開構造“が用いられています。特に薄く大きな膜面の収納・展開には「折り紙(英語でも“origami”)」の考え方が用いられており、宇宙科学研究所が打ち上げた探査機IKAROSの開発でも多くの折り紙モデルが検討され、実際の折りたたみ方にたどり着いたそうです。この様な折り紙を用いた膜面収納のアイデアの中には、ミウラ折りの様にスピンオフされ、皆様の身の回りで利用されているものもあります。

ミウラ折りを利用したパネル構造の収納・展開



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