Research

□ Creek-gap電極による細胞の誘電泳動特性の新しい解析法

はじめに

 近年,多量の細胞試料の中に僅かに含まれる特定の細胞を,損傷させることなく短時間で正確に分離する技術の確立が求められています.従来の技術では, 遠心力や,光,磁場,電場が細胞を分離するために利用されていますが,それらの中でも,不均一交流電場による誘電泳動(DEP : Dielectrophoresis)の 原理を利用する細胞分離技術は,細胞に対して非侵襲であり,蛍光標識を必要としないという大きな利点を持ちます.

交流電場によるDEPを用いた細胞分離では,Clausius-Mossotti(CM)因子と呼ばれる複素量βの実数部Re(β)の値が重要になります. 細胞に作用するDEP力の大きさと向きはRe(β)の値に依存し,さらにRe(β)は交流周波数で値と符号が変化するため,正確なRe(β)の値を得ることが, 高効率細胞分離を実現する上で不可欠です.しかしながら,細胞のRe(β)を精度よく直接測定する方法は未だ見出されていません.

Creek-gap電極デバイスの提案

 細胞のRe(β)を実験的に精度よく求めるためには,DEP力で移動する細胞の移動速度が一定となるような電場を生成させることが必要です.当研究室では, そのような電場を生成可能なCreek-gap電極を設計・製作しました.原理的には,図1にあるように,計算で求められる扇形のような流路形状にすることで, 電場の2乗のこう配∇E2が流路に沿って一定となります.すなわち,Creek-gap電極では,流路に沿って細胞が一定速度で移動し,この移動速度を測定することで 細胞のRe(β)を求めることが出来ます.

 図2はCreek-gapの流路を細胞が移動する様子です.細胞は流路内では図の水平方向に移動し,Creek-gapを抜けると,扇状に広がり, 等電位線(電気力線に垂直な曲線)に沿って移動してゆきます.

実験装置と実験方法

 図3は実験装置の概略を示したものです.装置は波形発生装置,Creek-gap電極デバイス,倒立顕微鏡,ビデオカメラにより構成されます. 細胞の分散媒には非電解質のマンニトール等張溶液を用いています.Creek-gap電極に20.0Vppの交流電圧を印加し,周波数を15~300kHzの範囲で変化させ, 撮影した動画を解析して移動速度vを解析することでRe(β)を求めました.右図はCreek-gap電極デバイスの流路を細胞が移動する様子で, 一定の速度で細胞が移動していることがわかります.

Creek-gap電極の温度場解析

 交流電場によるDEPデバイスを用いて細胞分離を行う際,溶液の通電によるJoule発熱が問題となる場合があります.従って, 電場を利用した細胞分離デバイスを設計・製作する際は溶液のJoule発熱が細胞へ与える影響を評価するための熱解析が必要です. 本研究ではCreek-gap電極デバイスでのJoule発熱の影響を調べるため,共焦点レーザー走査型顕微鏡とRhodamine Bを用いたレーザー誘起蛍光法により温度場解析を行いました.

 図4の右図は負荷電圧20.0Vppの時のデバイス温度の経時変化を示しています.電極板温度は180秒経過時で最大で8~10℃程度上昇する一方で, 細胞が移動する流路部ではほとんど温度上昇がないことから,Creek-gap電極デバイスに関してはJoule発熱による細胞への影響は ほとんど考慮する必要がないことが分かります.


Fig.1 Fig.2 Fig.3 Fig.4

       図1              図2              図3              図4


担  当:
多田教授
論  文:
Shigeru Tada, Masanori Eguchi, Kohei Okano: Insulator-based Dielectrophoresis Combined with the Isomotive AC Electric Field and Applied to Single Cell Analysis, Electrophoresis, Vol.40, pp.1494–1497, 2019.
Shigeru Tada, Yui Omi, Masanori Eguchi: Analysis of the Dielectrophoretic Properties of Cells Using the Isomotive AC Electric Field, Biomicrofluidics, Vol.12, No.4, pp.044103-1-044103-12, 2018.
学会発表:
〇Noriko Sato, Shigeru Tada, Masanori Eguchi: Estimation of Electric Properties of Mammalian Cells Using the Creek-gap Dielectrophoretic Electrode, The 10th Asian-Pacific Conference on Biomechanics, Taipei, Taiwan, 2019. (Best Poster Award)
〇佐藤紀子, 多田茂, 江口正徳: Creek-gap電極を用いた細胞の誘電泳動特性の解析, 第32回バイオエンジニアリング講演会, 2019年12月20日(金)~21日(土), 商工会議所会館, 金沢市.
〇佐藤紀子, 多田茂, 江口正徳: 一様な誘電泳動力作用下での細胞の誘電泳動特性の解析, 日本機械学会2019年度年次大会, 2019年9月10日(月)~11日(火), 秋田大学, 手形キャンパス.
〇佐藤紀子, 多田茂, 江口正徳: Creek-gap電極デバイスによる細胞の誘電泳動特性の測定, 第31回バイオエンジニアリング講演会, 2018年12月10日(月)~11日(火), 日本大学, 郡山キャンパス.
Shigeru Tada, Yui Omi, 〇Masanori Eguchi, Noriko Nakai(Sato), Akira Tsukamoto: Analysis of Dielectrophoretic Properties of Cells by the Use of the Uniform Field Gradient, Proceedings of World Automation Congress 2018, IFMIP TP-1-3, Washington, U.S.A., 2018.

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