卒業生からのメッセージ

一事務官にとっての総合安全保障研究科の意義

防衛庁事務官 鈴木朗尋 第1期卒業(防衛組織行政コース)

鈴木朗尋

軍事組織は、どこの国でも、多くのセクショナリズム、非効率、矛盾に満ちています。陸、海、空軍といった異なる軍種に分かれているだけでなく、職種も違い、軍人と文官といった属性の異なる構成員が集まり、更に政治と軍事の微妙な関係の中で、様々な力関係が絡み合って運営されています。また、普段は能力を発揮しない(=平和である)ことが最も期待されるという、倒錯したインセンティブの中に置かれています。この組織をいかに効率的・効果的に運営し、的確な意思決定につなげていくか、これは「国を守る」という組織目的を達成する上で非常に重要かつ困難な課題です。

民間企業、とくに欧米の企業においては、こうした組織の効率性についての関心が高く、近年ではIT革命の成果をホワイトカラーの労働生産性向上に結びつけようとする動きが急です。また、これらの諸国の軍事組織においても、科学的手法による効果的な組織運営に多大な努力が払われています。

他方、日本の組織では、未だ実務における意思決定はかなり前近代的と言えるでしょう。仕事のノウハウは正に盗むものであり、意思決定の仕組み、制度、必要な情報の流れ等は必ずしも体系的に整っていません。個人の努力や業務を通じて得る属人的経験が組織を支えているのが現状です。今、私は通産省に出向していますが、先端民間企業の人々と接することの多いこの組織でも、そうした取り組みは決して十分ではありません。今の防衛庁・自衛隊も、組織運営という観点からは、兵站面の知識なしに戦っているようなものかもしれません。

私が安全保障研究科の防衛組織行政コースが意義深いと感ずるのは、それがともすれば日常の仕事を処理するだけで大局観を失いがたいな役人生活で、そうした軍事組織を効果的に運営するための洞察を、実務経験に即しながらも学問的に考える機会だったからです。私自身としては、制服の自衛官、ジャーナリスとを初めとする民間の人々、それに私のような事務官がともに研究するこの研究科は、安全保障という共通項を持ちながらも、様々な実務経験を持った学生が知的な刺激に満ちた経験でした。そしてこの2年間の経験は結局自らの属する組織が持つ課題に取り組んでいく上で有形無形の財産になると考えています。安全保障研究科での研究教育活動の積み重ねが「働く時代」にふさわしい防衛庁・自衛隊の組織づくりに貢献していくものと信じています。

鈴木朗尋
早稲田大学大学院政治学研究科修了(1995年)、同年防衛庁入庁。装備局管理課、防衛局防衛政策課勤務を経て、総合安全保障研究科(1997-99年)。運用局運用企画課を経て、現在通産省機械情報産業局電子機器課勤務。

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