卒業生からのメッセージ

総合安全保障研究科の意義

三等陸佐 小川健一 第8期卒業(戦略科学コース)

「変革の時代」と言われて久しい。私の所属する防衛庁・自衛隊も「変革の時代」に対応するために組織変革が求められ、実際に日々組織の変革がなされている。しかし、「変革の時代」に対応するためには単に組織を変えるのみで十分であろうか?いや、そもそも「変革の時代」とは何を意味するのだろうか?「変革の時代」の中で、我々に求められているものは何であろうか?我々は何を為さねばならないのであろうか?

このような問いは重要であると頭では理解していても、実際に日々の業務に追われているとなかなか落ち着いて考えることが出来ないのが実情であろう。しかし、ここ総合安全保障研究科では、2年間という時間が与えられ、それも学ぶことイコール仕事という大変恵まれた環境で思う存分上述したような問いに対し思考を巡らすことが出来る。

総合安全保障研究科の2年間のうち1年目は授業中心であるが、授業と言ってもそこは大学院、専らゼミ形式で行われる。高い専門性を有する教官の下、学生がレジュメを作成し、テーマについて思うところを自由に議論し、理解を深め合う。2年目は1年目で得た安全保障の基本的な知識を基に、各人の関心に応じて指導教官を選び、指導教官の指導下に修士論文を執筆する。指導教官によるマン・ツー・マンの指導でもかなりハードであるが、総合安全保障研究科では他大学院では見られない、プロジェクトという課目が存在する。それは学生2〜4人に対し、教官6〜8人程度で構成され、月に1〜2回のペースで修士論文の進捗状況、今後の方向性を学生が発表するゼミである。発表の際は、「まな板の上の鯉」状態、発表後の質疑応答では「蛇に睨まれた蛙」状態になるのが我々大方の学生の常であったように思い出す。

その道の第一人者である教官や様々な組織・職歴・年齢の同期と過ごした2年間は、貴重な経験であったと総合安全保障研究科の卒業生は異口同音に言うであろう。私もそれは否定しない。しかし、総合安全保障研究科を志望する方々に申したいのは、「ただ受身な姿勢では貴重な体験にならない」ということである。

そこで生意気と言われるかもしれないが、一卒業生として、総合安全保障研究科を志望するに際して必要な資質を二つ挙げたいと思う。

第一の資質としては当然ながら学ぶ意欲である。我々の組織は無駄に2年間を我々に与えてくれるのではない。我々は組織が投資したものに見合った、いやそれ以上を組織にリターンしなければならないことを肝に銘じて2年間を過ごさねばならないと私は思う。学ぶ意欲のない者は、指導してくださる教官や共に学ぶ同期生、更にこれまで総合安全保障研究科の伝統を築き上げてきた卒業生にも迷惑がかかるのではないかと私は思う。

第二の資質は、議論を厭わないことである。大学院の授業はゼミ形式で専ら行われるのは先述したが、そこでは教官から教えを請うのではなく、自ら理解していることを披露し、それについて教官・同期生からの批判や議論を通じて更に理解を深めるということがより重要になってくる。しかしながら、自分の意見を批判されることは気分が良いものではないし、人の意見に対し批判することも勇気がいることである。しかし、批判されたくない、あるいは批判したくない人が総合安全保障研究科を志願することは、自由・闊達な議論を通して相互に理解を深め合うという総合安全保障研究科の長所を活かすことが出来ないのではないかと思う。

以上、偉そうに述べてきたが、確実に言えることは、総合安全保障研究科とは、小さく叩く人には小さくしか響かないが、大きく叩く人には大きく響く鐘のようなものであると言うことである。学ぶ意欲があり、入校中に意義深い日々を過ごし、卒業後にその成果を思う存分発揮できるような人が一人でも総合安全保障研究科に志望することを卒業生の一人として切に願う次第である。

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