「映画で考える・レベッカ」(1月16日新図書館AVホール)体験記を北井彰学生が書かせて頂きます。
今回の作品『レベッカ』を選考して頂いたのは、外国語教室の塚田教官です。教官はアメリカ南部文学を専門とされ、博士号もお持ちの方です。また映画を独学で学ばれ、その知識の広さには驚かされます。ただ、残念ながらその日は3学年の方は授業、2学年はスキー訓練の準備、レポートの提出日と何かと忙しいときであり、参加者は2学年寶嶋学生、波賀学生、井上教官、野ノ瀬教官、上林教官と私のみとなってしまいました。<映画の紹介とあらすじ>
題:『Rebecca』
監督:アルフレッド・ヒッチコック
制作:デイビッド・セルズニック(『風と共に去りぬ』のプロデューサー)
原作:ダフネ・デュ・モーリア
出演:ローレンス・オリヴィエ、ジョン・フォンティーン(東京・虎ノ門生まれ)あらすじ
フランスのモンテカルロ旅行中に、ヒロイン(ジョン・フォンティーン)は裕福な英国紳士マクシム(ローレンス・オリヴィエ)と知り合い、彼の後妻に迎えられる。そしてイギリスにある彼の大邸宅へとやってきたヒロインは、亡き前妻レベッカを崇拝する召使いのダンバーズ夫人と、見えない影に苦しめられる・・・。
この作品はヒッチコックの初ハリウッド進出作品で、1940年度アカデミー作品賞・撮影賞を受賞、他9部門でノミネートされている。
原作はダフネ・デュ・モーリエの小説で女性を視座に、結婚の意味を問う物語である。ヒッチコックは原作によりそいながら、ヒロインの心理的不安、そして謎解きと裁判のサクペンスに興味を移しかえて映像化している。<感想>
以下塚田教官の論文『反転する視座 ヒッチコックのレベッカにおけるジャンルとジェンダー』を参考にしつつ、私の感想を書きます。
まず、この映画の特徴は"恐怖の対象が目に見えない"ということです。当時(1930〜1940)の恐怖映画といえば『フランケンシュタイン』、『狼男』、『ドラキュラ』などみな目に見える存在が恐怖の対象です。ところが『レベッカ』ではもう死んでしまって存在しないはずのレベッカ、つまり彼女の視線を感じることで観客は恐怖、不安を感じます。また、視線の不安を効果的に用いるために、映画の前半部ではカメラワークをヒロインの視線に同調させ、観客をヒロインに同一化させます。しかし、彼女がイギリスの大邸宅に着いたときから「切り返し」というカメラワークの多用によって、ヒロインの視座を奪い、観客のヒロインへの同一化を妨げます。観客は感情移入する対象を失い、映画を観ていて不安を感じるのです。あのスティーブン・スピルバーグは初期の恐怖映画(『激突』『ジョーズ』)を撮る際、ヒッチコックの"見えない恐怖"を参考にしたと言っているそうです(井上教官談)。ヒッチコックがいかに時代に先行していたかがわかりますね。
ヒッチコックのカメラワークの巧みさには驚かされます。例えば、ヒロインの幼さ、小ささを際立たせるため、彼女と屋敷のショットではカメラが後退して、大きな屋敷と小さな彼女という構造を作ります。また、ヒロインとダンバーズ夫人のツーショットでは常にヒロインが夫人より下に位置し、ヒロインの立場を象徴しています。そしてヒロインがレベッカの過去に迫ろうとするとき、彼女は「二重のフレーム」に覆われます。つまり、カメラのフレームと画面内のフレーム(窓枠、アーチ状の窓、大きな絵画)という2つのフレーム(枠)に囲まれるというわけです。このフレームが実はレベッカの存在、視線を暗示しており、観客は何かに監視されているような、息苦しい気分になるのです。『レベッカ』が作られた1940年は戦争中であり、男は戦場に行き、女はその穴を埋める為に就労しました。この時代背景は映画にも影響を及ぼし、映画の中で仕事が成功する女性が結局不幸になり、破滅するか、家庭に回帰するといった筋書きの作品が多数あらわれました。『レベッカ』では、最初ヒロインの視座が観客の視座であったのに、後にマクシムにその視座を渡します。そしてマクシムとヒロインはレベッカを排除しようとすることで結ばれ、女性映画が成立します。しかしレベッカは最後まで排除はされずにマクシム=ヒロイン=映画の観客=男という映画の視線の構造をにらみつづけることによって女性映画の視線の問題を明らかにしました。このことは1970年代になって初めてフェミニストによって気づかれ『レベッカ』は再評価を受けるようになりました。なんとヒッチコックは30年も時代に先行していたのです。
前半はメロドラマのような展開であり、中盤で恐怖映画にかわり、後半は裁判サスペンスものになってしまうこの映画をみてなんとめまぐるしい展開だと感じたけれども、ただ1つの作品で恐怖や不安の操作、時代背景、女性問題など多くのことを考えさせてくれました。名作とは様々なことを考えさせてくれ、多様な解釈のできるものだと思います。その点でまさしく『レベッカ』は名作の1つに入るでしょう。
p.s. 塚田教官、次回もおもしろい映画の提供をお願いします。