人間文化学科 映画で考える 「エス」 15.10.10


元田雄三

 

     実はこの映画、見る前からうきうきしていました。しかも映画の会自主参加ははじめて(短艇委員会の関係上)です。 あらすじを突きつけられた瞬間から早く見たいと思っていました。感想を書きます。考察はかけません。あしからず。

 このフィクションとノンフィクションの入り混じった映画、見所はセックスでもバイオレンスでも(わかる人だけわかってください)ありません。人です。人の心です。人がこんなに簡単に、しかもこんなに短期間にと思うほど変わります。人の壊れていく過程が非常に面白いです。概して看守は権威的になり、高圧的で暴力的になります。囚人は看守におびえ、おどおどし、看守の目に付かないようにと行動し、いたって消極的になります。また看守側は良心にとどまるものと責任を他人に押し付けて行くところまで行くもの、囚人側は狂っていくものと踏みとどまるもの、自分だけを守るものと見を挺しても仲間を助けようとするもの、ちょっとした違いがこのように大きな差として現れてきます。まるでどこかの誰かを見ているようです。何らかの枷がなかったら、どこでもこうなるのかもしれません。

 この作品の設定は実験です。何もマジになる必要はありません。看守役だからといって本気でやることはありません。やらないならそのように実験結果が出るだけです。最初はみんなそう思っています。しかし、みんな本気になります。「参加すると自分で決めさせた」後は設定をし、役とルールを与えるだけでみんな変わっていくのです。ここが面白いところです。

 もちろん欠かせないのが引っ掻き回す囚人役、主人公。この人が何かやらかすたびに囚人と看守ごっこは熱を帯び、激化し、暴力沙汰になり、教授が喜びます。

 そしてもう一人、コンプレックスの塊から一番サディスティックな看守へと、さなぎから蛾へと羽化するように変わっていく看守役。彼は素敵です。コンプレックスを主人公に突かれて劇的に変化します。看守の暴走の大部分は彼が導いています。そして主人公を目の敵にします。

 この映画の中にはちゃんとラヴロマンスも含まれています。主人公と父親を突然失って一人になってしまった女性。これは後々ストーリーに重要な絡み方をしてきますが、それ以上に重要なのは主人公の心理の深いところに彼女がいること。ライターの彼が記事を求めて引っ掻き回すたびに看守は制裁を加えます。その後、暗澹とした気分の主人公の中に浮かび上がってくるのが彼女。暗所恐怖症の主人公が光と音をさえぎる箱に閉じ込められたときに脳裏に浮かぶのも彼女。事あるごとに彼女を思い出しています。一晩だけの出会いでしたが、非常に強く彼の心の中に存在しており、同時に彼を強くしています。

 この映画はとても面白いです。でもお勧めできる人とそうでない人がいます。心が弱い方はやめてください。コンプレックスやトラウマがなく、心臓に毛が生えた方のみ、お楽しみいただけると思います。


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