◆川沿いの町に潜む罠◆
上海旅行5日目、蘇州にやってきた我々は、午前の間、世界遺産にも指定された有名な庭園である拙政園を見学し、午後は電車の出発時刻まで自由行動となった。私は、もはや完全に現地人と化しているSさんと、精強この上ないOさんと共に行動することにした。
昼食を大衆食堂で済ませた我々は、ようやく出番の来た観光ガイドブックを片手に、大通りを南へ進んでいった。大衆食堂は安くて味もなかなかであったため、我々は気分も上々と言ったところだ。目的地である大きな商店街に辿り着いた我々は、漫然と通りを進み、結局そのまま何もせずに突き抜けていった。商店街は近代的すぎて我々の目的にはそぐわなかったようだ。
次に我々は本来の目的地へ向かうことにした。川沿いに家々が並ぶ、山塘街という所だ。そこは予想以上に遠くにあったため、いい加減で人間不信なSは、何度も私に道は合っているのかと聞いてきた。人任せでただついてくるだけのお気楽なこの男と違って、私は必死にガイドブックを駆使して目的地を目指した。その努力が報われ、我々は長い旅路の末、山塘街へ辿り着くことができた。街はとても綺麗な所で、我々はその絶景に感動した。
ひととおり町を見物した後で、私はこの旅行における三本柱の1つ、おみやげの購入に専念することにした。とにかく私はあせっていた。一昨日も昨日もまだいいだろうとなめていたのだが、もしかするとこのまま、おみやげを購入する機会を逸してしまうのではないかという不安に駆られた。私は小心者であったのだ。もう5日目なので、私は追い詰められていた。あせっていたのである。だから、私の視野は著しく狭まっていた。あの店は誰が見ても怪しかったというのに、店員の持つ独特の雰囲気にうっかりだまされてしまったのだ。箱がぱこぱこ開いていたというのに、それを不審に思わなかったのだ。膨張したパッケージに気付くことができなかったのだ。
夕刻、我々は山塘街にあるマクドナルドで時間を潰していた。そこで、なんとか街で購入した私のおみやげが話題になったのだ。改めて見ると、やっぱりおかしかった。Oさんは「それやばくね?」と的確に指摘。「お前、ちょ、食べてみ?」とS。私は意を決して、初めから箱が開いていた苺まんじゅうを口にした。まずかった。直後に何ら変化は見られなかったため、即効性のものではないことが判明した。くるなら2、3時間後だろうとOさんは読んでいる。とりあえず、我々はそのまま駅へ向かうことにした。
結局、私の健康には何ら異常は見られなかった。しかし、このおみやげを他人に渡すのは気が引けたので、私はそれらをホテルの棚に放置して帰国したのであった。