三浦半島における放射性物質による汚染状況の調査

防衛大学校 応用科学群 応用物理学科 放射線計測研究室 松村 徹,新川 孝男

更新日 2011624

 

当研究室では、20113月に発生した福島第1原子力発電所の事故を受け、地元である三浦半島の放射性物質による汚染状況の調査を行っています。調査目的は、「三浦半島内の汚染状況を空間放射線量および土壌放射能の測定によって把握し、福島第1原子力発電所から飛来した放射性物質がどのように三浦半島に沈着したのかを明らかにすること」です。

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1. 土壌採取および放射線量の測定の様子

 

 

** 空間放射線量率 **

5月末から、半島内の大まかな汚染状況を把握するため、三浦半島内の約3km間隔の地点における空間放射線量率(測定空間における放射線による単位時間当たりの被ばく線量)の測定および土壌採取を行っています(図1)。取り急ぎの計測地点として市民の関心が高いと考えられる「公園」、および横須賀市の「市民農園」を選びました。図2にそれぞれの公園において観測された空間線量率の最大値を示します(より見やすいPDF版はこちらです)。測定に用いたサーベイメータは、AlokaNaIシンチレーション式サーベイメータTCS-151です。

 

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2. 測定した公園の位置と地表から1mの高さにおける空間線量率の代表値 (PDF版はこちら)

 

 

測定の結果、特に半島の東京湾側(観音崎方面)で平常時よりも高い放射線量が観測されました。その一方で、三浦市がある半島の南端方面は、ほぼ平常値の放射線量であることが分かりました(図3)。なお、平常時の横須賀の空間放射線量は神奈川県衛生研究所によって定期的に測定されており、2009年の平常値として0.057 μSv/h(横須賀市長坂)という値が報告されています(神奈川県における放射能調査・報告書-2009- より引用)。

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図3. 傾向が見やすいように色分けして表した1mの高さにおける空間線量率分布。観音崎方面(半島東端)付近で平常値よりもやや高めの線量が観測されたが、三浦市方面(半島南部)では、軒並み平常値。(PDF版はこちら)

 

 

観音崎方面で平常時よりやや高い線量が観測されましたが、最大でも0.12μSv/hです。これは、花崗岩(放射性のウランやトリウムの含有量の高い)が多く分布する西日本の自然放射線による線量と同程度ですので、外部被ばくに関して特に心配する必要がない線量であると言えます(参考資料 日本の環境放射能と放射線 ホームページ)。土埃などを吸い込む、または汚染された土壌で栽培した野菜を摂取することによって生じる内部被ばくについては、今回採取した土壌の放射能濃度の結果が得られれば、実効線量換算係数や農作物への移行係数を用いて算定することが可能になります。

 

 

** 土壌の放射能濃度の測定状況 **

採取した土壌の放射能濃度測定には、鉛シールドで遮蔽されたゲルマニウム半導体検出器を使用します(図4)。この装置は試料から放出されるガンマ線を検出する装置ですが、他のNaIシンチレータなどのガンマ線検出器に比べ、放射性物質の種類を見分ける能力に優れています。図5は、例として防衛大理工学1号館前で採取した土壌を、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した際のガンマ線のエネルギースペクトルです。自然界に存在しない ヨウ素131、セシウム134、セシウム137に対応するピークがはっきりと確認することが出来ます。現在、このゲルマニウム半導体検出器を使用して三浦半島の各地で採取した土壌(図6)の放射能濃度を測定しており、実験結果の精査を行っています。

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4. 放射能濃度測定用のゲルマニウム半導体検出器と、

自然放射線を遮蔽するための仮設鉛ブロックシールド。

測定試料を鉛シールド内に設置して測定します。半導体検出器を使用する際にはデュワーを液体窒素で満たしておく必要がある。

 

 

http://www2.nda.ac.jp/cgi-bin/cbgrn/grn.cgi/message/file_download/-/soil_activity_0422.gif?cid=1083&rid=46615&mid=139972&rfid=156643&.gif

5. 当研究室のゲルマニウム半導体検出器で測定した、土壌から放出されるガンマ線のエネルギースペクトルの例

 

 

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6. 乾燥後ポリプロピレン容器に封入された三浦半島各地の土壌サンプル

 

624日 一部表現を修正