1995年夏から2年間、
米国のコロンビア大学国際公共学部大学院(SIPA)の
国際関係学修士(MIA)課程で、国際安全保障政策を学びました。
安全保障専攻者はSIPAの一学年400人のうち、20人程度の少数派。
日本人は陸上自衛官と私のわずか2人でした。
かつては一大派閥を形成していたようですが、冷戦終結でじり貧状態です。
現在は国際政治経済、環境政策、人権、メディア論を専攻する人が多いようです。
安全保障専攻者は国際政治、軍事戦略、紛争論、外交論などを中心に勉強します。
卒業には54単位(通常18科目)が必要です。
経済学や統計学に加え、履歴書の書き方などを学ぶ「就職講座」も必修なので
履修しなければなりません。修士論文は不要です。
カリキュラムの詳細は、
http://www.sipa.columbia.edu/index.htmlを見てください。
ほとんどの科目には毎週200~500ページの必読文献があります。
ふつう週4、5コマ履修しますので、
ほぼ毎日この分量の英文を読まなければなりません。
授業は必読文献を読んでいないと、ついていくのが大変です。
必読文献は図書館に置いてありますが、2時間以内に返却する必要があり、
ひたすらコピーをすることになります。
毎日長時間の「コピー地獄」が読む以上につらいのです。
余裕のない最初の学期は、教室、図書館、コピー店、自宅の
4カ所をぐるぐる回るだけの日々が続きます。
軍事戦略関係では、冷戦期のNATO軍戦略策定者、米陸軍士官学校教官、
ブルッキングス研究所研究員らが担当する科目もあります。
必読文献は米国防報告書、湾岸戦争報告書、海兵隊フィールドマニュアルなど、
学術論文以外の文献が目立ちます。
授業には現役軍人の学生もいますので、議論はかなり専門的になります。
例えば、米軍事戦略に関する授業は、数年前から見直しを含め議論されている
「二正面同時対応戦略」に関する内容でした。
試験は
「国防予算削減のなか(当時)、米国のとるべき軍事戦略と、
それに応じた軍事力を示せ」
で、陸海空軍と海兵隊の規模を兵力、空母など艦船、戦闘機の数などを
具体的に示して議論するものでした。
軍事科学分析法の試験は「中国は台湾に侵攻可能か論ぜよ」で、
実際の軍事バランスをもとにシミュレーションするものでした。
国際政治の理論的な授業とは、ひと味違う内容で、
日本ではなかなか学べない大変興味深いものでした。
実地研修では、米海軍基地ノーフォークと
米海兵隊基地キャンプ・レジューンを訪問しました。
大西洋艦隊司令部では、
その日司令官らが受けたブリーフィングをしてくれました。
当日の軍事関係ニュース、イラクなどの中長期的な情勢分析、
米艦船の状況(日米共同訓練で日本海にいた、
インディペンデンス空母戦闘群の位置も大型スクリーン上の地図に示されました)
など20分程度でした。原子力潜水艦も見せてくれました。
海兵隊基地では、実際の訓練で使われている
コンピューターシミュレーション装置によって、M16ライフル、
M2機関銃の射撃や攻撃ヘリ「コブラ」の操縦を体験できました。
◇
SIPAも含めて、安全保障研究分野では、
やはりリアリズムが幅をきかせています。
平和研究が盛んな日本とは対照的です。
米国留学中にリアリズムを「服用」しすぎた日本の研究者、公務員の多くが、
力の政治に走りがちなのも、むべなるかなと感じました。
留学期間中は、沖縄少女暴行事件、普天間返還合意、日米安保共同宣言など
日米同盟をめぐって大きな動きがあった時期でした。
しかし、授業では、日米同盟に関する議論はあまり取り上げられませんでした。
日米同盟が言及されるとしても、
中国との関係において日米同盟がどういう役割を果たすかというものでした。
米国の対アジア戦略に関しては、中国を意識した議論が目立ち、
日本はあまり相手にされていないのではないかという印象も持ちました。