イオン選択性プローブによる局所イオン濃度のイメージング

クラウンエーテルを溶解させたジクロロエタンと水溶液界面に電位を印加すると,水溶液中のイオンが有機溶媒相へと移動することが知られてています.

ジベンゾ18クラウン6のジクロロエタン溶液を細く引いたガラスキャピラリ内部につめ,キャピラリ内部を負に印加すると水溶液中のカリウムイオンの促進イオン移動が起こり,カリウムイオン選択性電極として機能します.

下図は上記のイオン選択性電極のサイクリックボルタモグラムです.キャピラリ内部の電位が−0.6Vより負の電位領域で定常電流が観測されます.水溶液中のカリウムイオンの濃度に比べ,クラウンエーテルの濃度を大過剰としているので,この定常電流は水溶液中のカリウムイオンの濃度に比例します.

このようなイオン選択性電極ををSECMの探針として用いたSECM測定はすでに報告されていますが,サイズが25ミクロンと大きい,基板/探針間の距離制御を行っていないため,細胞等の凹凸のある試料の観察には不向きです.そこで,我々はマイクロキャピラリーを用いたシアフォース探針を応用し,先端がサブミクロンで,距離制御可能なイオン選択性プローブを作成しました.このプローブをガラス基板に近接させたときの電流値および水晶振動子の出力変化を下図に示します.水晶振動子の出力が1%減少するまで近接させました.ガラス基板近傍ではカリウムイオンの拡散が妨げられるので電流値が減少しています.キャピラリ先端の内半径および外半径はそれぞれ630ナノメータ,1.3ミクロンです.実線は実測値,■はデジタルシミュレーションによる理論値で実測値とよく一致しているのがわかります.

このプローブをナフィオン膜に近接させると次のようになります.ナフィオン膜に近接させると,カリウムイオンが膜から供給されるため電流値の減少は観測されません.

キャピラリ孔内につめたナフィオンをSTAモードでSECM測定すると以下のようになります.ナフィオンの部分ではカリウムイオンが供給されるため電流値は減少しません.形状イメージからは,ナフィオンの部分が盛り上がった様子が観測されます.これは水溶液中でナフィオンが膨潤したためであると考えられます.