金表面上の長鎖アルカンチオール単分子膜の欠損部の観察

チオール類は金表面に化学結合し,単分子膜を形成することが知られています.下図はフェロセンアンモニウム溶液中で測定した裸の金電極およびヘキサデカンチオールを吸着させた金電極のサイクリックボルタモグラムです.それぞれの金電極の直径は30ミクロンです.裸の電極では0.5V以上の電位においてフェロセンアンモニウムの酸化に起因する定常電流が観測されます.金表面にヘキサデカンチオールを吸着させるとフェロセンアンモニウムの電子移動反応はほとんどブロックされます.

完全にはブロックできず,わずかに酸化電流は観測されており,これは,ヘキサデカンチオール膜を介した長距離電子移動による電流とわずかに存在する欠損部で起こる電子移動反応によるものです.しかし,このCVからはこれら二つに起因する電流がどれくらいの割合であるかを知ることはできません.

金電極の電位を0.7V,微小電極の電位を0.2Vとしてヘキサデカンチオールを吸着させた30ミクロンの金電極をSTAモードで走査すると下図のようなSECM像が得られます.30ミクロンのヘキサデカンチオールで覆われた金表面がうっすらと観測され,ところどころ電流が大きい部分が現れています.電流が大きい部分が欠損部に相当し,電流値を解析することにより欠損部の大きさを知ることができます.欠損部を直接観測した例は極めて少なく,STMで観測した例が報告されています.数ナノメータから数十ナノメータの欠損部分を直接SECMで初めて観測することに成功しました.