ジャンピングシーラスとは?

ジャンピングシーラス(Jumping Cirrus・以下JC)とは、 発達した積乱雲のてっぺんから数kmほど上にジャンプして飛び出す雲のことです。

cirrusは日本語では巻雲とか絹雲とか呼ばれます。 どちらの表記でも「けんうん」と発音します。 上空に漂う絹のように薄いくるっと巻いた雲のことです。

圏界面(高度15km前後)から下を対流圏、その上が成層圏です。 積乱雲の中の上昇気流は、速いところでは数10m/sにもなります。 世界最速のエレベータよりも速いです。 そんな勢いがあっても圏界面を突き抜けて成層圏に達することは難しく、 積乱雲が勢いよく圏界面にあたっても、 積乱雲がもこっと圏界面を押し上げるだけで(*)、 その盛り上がりはすぐに戻されてしまいます。 その戻された直後に鯨の潮吹きのように雲が噴き出るのが典型的なJCです。 ただし、もこっとした雲が沈む過程で雲がはがれてJCとなったり、JCにはいくつか種類はあります。

* もこっとした雲はovershooting top (OT)と呼ばれています。

普通の積乱雲だと成層圏に侵入できないのですが、 JCでは積乱雲のてっぺんから圏界面を破り下部成層圏に侵入できます。 JCは下部成層圏に効率的に雲粒などを運ぶことができると考えられています。

JCの写真

図はSeguchi et al. (2019)の事例5からとったものです。 積乱雲の背はちょっと低めなので、逆転層に引っかかったのかもしれません。

JCの動画

このJCは幅が数kmくらいと小規模なものですが、 衛星データの解析から100km近いJC「もどき」も観測されています。 「もどき」とつけているのは、 色々なデータからジャンプしていることは推測がついても、 実際にジャンプしている姿を確認できていないためです。

JCの研究の歴史

JCは、藤田哲也さん(*)が1970年代に発見した雲です。 当初はJCと呼ばれていませんでしたが、 80年代の論文で、藤田さんは「Jumping Cirrus」という言葉を使いました。 2000年代になってJCをコンピュータの中で再現できるようになりました。 最初に再現したWisconsin-Madison大学のWang教授は 「JCは長いこと誰も信じていなかった。 彼が生きていたら『あなたは正しかった』と言ってあげたかった。」 と仰っていました。

* 藤田さんといえば、竜巻のフジタスケールやダウンバーストで有名な方です。 ダウンバーストも提唱当時は誰も信じていませんでした。 なお、藤田さんは長崎の原爆被害調査を行っています。 ダウンバーストはそこからも着想を得たようです。 誰も信じない現象を2つも見つけられるって、 すごいことと思いませんか。

Wangさんの数値計算によって、JCはOTが作る波が壊れるときに作られることが分かりました。 波は大気と海水の間の海面のように、密度に差がある場所で発生しやすいです。 対流圏と成層圏にも密度に差があるので、その境目の圏界面で波が発生しやすいです。 積乱雲がもこっと圏界面を持ち上げ、そのもこっが元に戻るときに波を発生させます。 その波が壊れるときにJCが発生します。

JCの見つけ方

JCと判断するためには、 発達した積乱雲のもこっとした雲が沈み、 そのそばから雲が上に吹き出す過程を見続ける必要があります。

JCはぱっと見では他の雲と見分けが難しいです。 ぱっと見では雲が横方向に伸びているのか縦方向に伸びているのか判断つかないためです。 意外かもしれませんが、 発達した積乱雲も見慣れないと判断は難しいです。 小さい雲でも近くに現れると大きく見えるので。

すぐそばに現れた積乱雲で発生するJCも見つけられないです。 すぐそばの積乱雲のてっぺんは見えないためです。 下から高層ビルの屋上が見えないのと同じ理由です。

観測者から100-150kmくらい離れた場所に 発生する積乱雲だとてっぺんがちょっと見え、 それでいて手頃な大きさに見えます。 そんな積乱雲から発生するJCは見つけやすいです。 とはいえ、てっぺんが見えると言っても、 やはり見上げる角度の問題で、 積乱雲の観測者側の隅っこから数km以内で発生したJCしか見えません。

さらにJCと観察者の間に雲があると視界が遮られるのでJCは見えません。 積乱雲自体が観測者の方にかなとこ雲を吐き出すこともあります。 積乱雲が発生しやすいときは、そもそもいたるところに雲が発生しやすいです。 JCはちょと見えにくい現象です。

ですが、外に出たら空を眺める癖がついていると、 ひと夏で数個はJCを見つけられると思います。意外と身近です。 皆さんがJCに気が付かないのは、 JCがどんなものか知らないのと、 数分間も雲を見続けるほど暇ではないためでしょうか。 積乱雲の「もこっ」を見つけてからJCが飛ぶのを待っている時間は、、 けっこう暇です。JCを見たいという強い信念?がないと、 普通は待たないと思います。 激しい現象にもかかわらず、 距離が遠いのでとてもゆっくり動いているか止まっているように見えるためです。

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