機械システム工学科

 海洋工学講座

 



  
 

    ■ 研究例 3 : 戦艦大和の波浪中性能に関する検証

 

 

プロジェクト『戦艦大和』

 当時の技術の粋を集めて作られた「戦艦大和」はどんな船だったのでしょう?広島県呉市に2005年1/10戦艦大和を展示する大和ミュージアム が開館し,映画では“男たちの大和”が上映され,世間ではちょっとした戦艦大和ブームになりました.その悲劇的な逸話やその兵装については比較的 知られているものの,”船として”はどんな船だったのかは船舶工学の研究者も含めて殆ど知られていないのです.開発および建造当時の資料が終戦時 に殆ど焼却されてしまい参照するデータがないのが大きな理由の一つです.  私たちの研究室では,その解明と学生の船への興味を喚起させる意味もこめて, 現在の先進CFD(数値流体力学)シミュレーション技術を駆使して, 波を突っ切る「大和」の揺れ具合をコンピュータ上で再現してその運動性能を追検証することに研究室プロジェクトとして挑戦しています.具体的には, 文献調査,残存するデータの収集から始め,元になる大和船型のライン図に運よくめぐり合えた2005年以来,4年生の卒業研究として排水量等再計算, 運動性能シミュレーションと続けてきており,その一部は近々学会発表できる段階まで来ています.シミュレーションすることは沢山残っており, 「大和」だけでも大変ですが,「武蔵」,「信濃」,・・・と広げていって,いつかは旧帝国海軍艦艇の科学技術に裏付けられたバーチャル ライブラリまでもっていけないかな?と夢は大きく持っているところです.





規則波中での運動性能

 本研究は,終戦後,米海軍対日技術調査団に提出された「大和・復元図面」を入手(*)し,オフセットデータの電子化作業を行いました. 線図から得られたオフセットデータだけでは流体力を精度良く計算するのに不十分であったためフェアリング作業を繰り返し,詳細な 形状データを作りました.また復元図に載っていなかった球状艦首及びスケグの形状も表現してみました.
 線形時刻歴ランキンパネル法を用いて,「大和」の船体運動の検証解析を行ってきました.ここでは向い波中の波浪応答の結果について簡単にまとめて見ます. 先ず,「大和」の計算用のデジタルモデルを作成し,排水量等計算を実施した結果,公表されている結果とは非常によく合っていることが確認されました. 次に向い波中を巡航速度(16ノット)で航走する「大和」の船体運動を推定しました.入射波の波長を変えながらそのときの運動振幅や入射波に対する運動の位相差を 計算します.一般的に,同調点と呼ばれる運動振幅がもっとも大きくなる波長(これは波の周波数に対応します)付近では正確にその大きさを予測するのは現在の技術をもって しても簡単ではありません(概ね推定はできますが,例えば水槽試験の結果に理論計算の結果をぴったりと一致させるのは難しいという意味です). この同調点付近を除けば「大和」の運動特性を非常に高い確率で良く推定できると言えるでしょう. これは他の理論計算法なども駆使して,船に働く流体力や波浪強制力などを検討した結果として言えるものであります. 特に,入射波に同調して船体運動(ここでは主として上下揺および縦揺れ)が大きくなる付近では,運動特性が示す傾向は良いものの定量的には検討の余地が あります.計算手法の特性も含めた上でさらなる検討が必要であると考えています. 条件としては厳しい速力27ノット,波長船長比が1.5の向い波(規則波)中での船体運動シミュレーションの結果を一例として示しています.

(*)「大和」の貴重な図面を提供していただいた船の科学館学芸部教育普及課元副主幹の伊東直一氏に心より御礼申し上げます.

デジタル大和の一部   

 大和ミュージアムで撮影した1/10模型

向い波中の船体運動シミュレーションです. 運動振幅を5倍に拡大して表示しています ( V = 27kt, Head waves in Lambda / L = 1.5)