機械システム工学科

 海洋工学講座

 



  
 

    ■ 研究例 4 : BEM を用いた滑走体まわり流れのシミュレーション

なぜ境界要素法(BEM)なの?

  偏微分方程式の離散化解法では計算結果が計算スキームの選択やパラメーターの設定に依存しやすいものですが,積分方程式の離散化解法であるBEMではこのような欠点は少なく,特に動揺浮体による造波問題においては信頼性のある解が得られることが知られています(例えば https://www.isope.org/conferences/conferences.htm における "The workshop of ISOPE Numerical Wave Tank Group"参照).

砕波やスプラッシュの表現は可能なの?

 自由表面上の流体粒子をラグランジェ的に取り扱うことで波面の大変形や巻き波などの数値表現が可能です.非粘性・非圧縮の渦なし流れであること以外に理論的近似を用いない立場からBEMを駆使した時間領域計算手法は既に確立されていますが,流れの加速度が大きくなるような問題では安定した計算ができないというのが実情でした.滑走艇のように飛沫を伴う流体現象もその一例であり,一般的に数値解析でこの現象を捕えるのは容易ではありません.しかし,こうした問題で取り扱う計算領域の幾何形状がBEMの計算精度を大きく低下させ,BE解析が強非線形問題への応用面でロバスト性に欠けていた主な原因であることが我々の研究でわかってきました.またスプラッシュの計算自身は従来も可能でしたが,これが発達することにより生じる液体の分離となると,計算を持続することは困難でした.それは流体領域が局所的に縮退し,境界同士が接触することに起因します.我々はこれらの対策として,人工的に液体分離をさせることを検討し,通常の計算技法では困難であった長時間のシミュレーションを可能にする実用的計算法を開発しました.

何のためにシミュレーションするの?

 ラストハンプを越えて高速航走する滑走艇の場合,造波抵抗は小さくなり,飛沫発生による抵抗(飛沫抵抗)が大きくなります.本質的には飛沫の発生は避けられないものと考えられますが,実際には船底にスプレーレールを装着することにより抵抗低減が可能であることが知られています.理論的に立証することは難しそうですが,より詳細なシミュレーションができるようになれば,将来,エネルギー論的な観点から任意形状船体の飛沫抵抗を議論することが可能になるかもしれません.

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 上の2つの図はBEMベースの2D+T法と呼ばれる計算法を用いて柱状滑走体まわりの流れを計算したものである.それぞれ正面および後方からの様子である.

 

 

 図はチャインから放出されるスプラッシュをシミュレーションしたものである.実線は人工的に液体を分離させながら計算を行った結果で,破線は通常の計算法による結果を示す.