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防衛大学校 応用化学科 応用物理化学研究室

研究内容「溶液中の希土類元素の科学」

水溶液・非水溶液中の希土類イオンの配位挙動の異常な濃度依存性

 生体中を含めて多くの化学反応は溶液中で起こる。ところが固体や気体の場合と異なり、溶液の構造は、分子の運動や分子間の複雑な相互作用の存在のために、従来の研究手段ではとらえることが困難であった。本研究では、実験条件・装置等を工夫することにより、溶液を急速冷却して凍結(ガラス化)するという実験方法を用いて、溶液構造を調べることを可能にした。ガラス状態では、低温の溶液構造がほとんどそのまま維持されていると考えられている。

代表主著者論文
Y. Yoshimura, K. Hirayama, and H. Makiguchi
"Anomalous Concentration Dependence for the Coordination Behavior of Clー Ions to Ln3+ Ions (Ln3+ = Rare Earth Ion) in Anhydrous Alcohol LnCl3 Solutions"
(J. Raman Spectrosco., 38, 819-823 (2007))

【概要】
 原子番号が増加するにつれて4f軌道に電子が入り、イオン半径がLa3+からLu3+まで連続的に変化する希土類元素は、化学的に非常によく似た性質を示す。遷移金属イオンと比較して元素数も非常に多く、イオン半径と化学的性質の関連を調べるのに適した元素群である。希土類元素は、機能材料として、磁性材料、発光材料、触媒等において、大きな役目を担ってきた。一方、希土類養鶏について、いくつかの基礎的な性質を調べてみると、必ずしも単純ではないことが分かった。
【独創性】
 希土類塩化物のアルコール溶液における希土類イオン(Ln3+ = La3+〜Lu3+)に対する塩化物イオンの配位挙動は、希土類系列を通じて一定ではなく、特に中希土から重希土側(Gd3+〜Lu3+)の(7配位:全内部配位数)溶液では、ガラス状態になると、高次のクロロ錯体が生成することを明らかにした。さらに下図に示すように、室温においてメタノールあるいは、エタノール溶液中の塩化物イオンの濃度を増加させると、中希土溶液(Gd3+〜Ho3+)の溶液では、逆に希土類イオンに配位する塩化物イオンの数が少なくなるかのように見える奇妙な現象を発見した。水溶液の場合においても、全内部配位数変化領域である中希土領域の希土類イオンの濃度依存性が、質量保存則とは反対の方向(水溶液濃度が濃くなると逆に水分子の配位数が多い方の分子種が優勢)になる。この異常な配位挙動の濃度依存性の原因について、錯体形成と全内部配位数変化の化学平衡の競合から説明した。
【科学(技術)に対する貢献度】
 化学の教科書などで学習する、いわゆる質量保存則から予測される方向と反対の挙動を示すことを発見したことは注目される。ガラスなど機能性材料して希土類元素を応用する上でも、本研究でみられたような特異な性質を考慮することは重要であると予測される。

【関連する論文】
・Coordination Number Change of Ln3+ Ions in Anhydrous Alcohol LnCl3 Solutions in the Glassy State
 (J. Solution Chem., 30, 213-221 (2001))
・Concentration Dependence of Coordination of Clー Ions to Ln3+ Ions (Ln3+ = Rare Earth Ion) in Anhydrous Methanol LnCl3 Solutions
 (J. Mol. Liquids, 119, 183-188 (2005))

希土類イオンを触媒とする生体(モデル)分子の化学変換

 生体内では、医薬品を含め分子はお互いに相互作用して存在し、分子が働く際、この分子間相互作用が鍵となる。金属タンパク質は様々に機能しており、生体内で電子や小分子を運搬したり、体内で必要な物質を作り出したりしている。
 希土類元素は、原子番号が増加するにつれて4f軌道に電子が入り、イオン半径がLa3+からLu3+まで連続的に変化する希土類元素は、化学的に非常によく似た性質を示す。遷移金属イオンと比較して元素数も非常に多く、イオン半径と化学的性質の関連を調べるのに適した元素群である。この希土類イオンを生体に対して用いた場合、他の金属イオンには見られない優れた触媒効果(例えば、DNAを選択的・特異的に切断する人工制限酵素として働く)を持つことが知られている。また、、希土類イオン(Ln3+)はCa2+イオンとイオン半径が近いことから、近年、生化学や生理学の分野でCa結合タンパク質(カルモジュリンやグロブリン等)のプローブとして用いられている。
 これまでの予備的研究として、水溶液中における希土類イオンの振る舞いについて研究を行ってきた。タンパク質のモデルペプチドとして知られるポリグルタミン酸(PLGA)はα-Helix構造とRandom Coil構造のHelixーCoil転移を生じる。PLGAの立体構造安定性に及ぼすCu2+、Mg2+、Ca2+イオンなどの二価の陽イオン添加に関する研究は、数多く報告されており、イオンの添加によりPLGAのカルボキシル基と架橋してキレート構造を形成し、α-Helix構造の割合を増加させることが知られている。そこで、PLGAにイオンサイズの異なる色々な希土類イオン(Ln3+)を添加した場合、PLGAの立体構造(HelixーCoil転移)がどのように変化するのかは非常に興味深い。より価数の大きな三価の希土類イオンを添加することにより、二状態転移をある程度制御できるのではないかと考えている。希土類イオン(Ln3+)は、同じ価数のままイオン半径を少しずつ変えることができるため、キレート構造を形成する最適な希土類イオンが存在すると思われる。


【関連する論文】
・Raman Study on the Coordination Structure of the Rare EarthーAcetate Complex in Water
 (J. Phys. Chem. A, 111, 6039-6043 (2007))
・Raman Spectroscopic Study on the Coordination Behavior of Rare Earth Ion in N-Methylacetamide
 (J. Phys. Chem. B, 112, 13355-13358 (2008))
・ポリグルタミン酸のヘリックスーコイル転移に及ぼす希土類イオン添加効果
 (低温生物工学会誌, 54, 79-82 (2008))




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