第7章 漂着ゴミの産出発生源と漂流漂着ルートの推察


7章 漂着ゴミの産出発生源と漂流漂着ルートの推察

 

7.1    はじめに

近年、海洋におけるプラスチック類、発泡スチロール、漁具類等による海洋生物への被害など、海上漂流物による海洋汚染の問題が世界的に関心を集めていることから、海上保安庁ではこの実態を把握するため、1993年以降、日本周辺海域に15定線を設定し、定期的に巡視船からの目視観察による海上漂流物の実態調査を実施している。

1999年の海上漂流物の実態調査によれば、調査総距離数4,265海里において目視総数3,900個を数え、10海里(18.52km)当りの平均目視数は9.14個で前年より2.15個(約19%)減少したと報告している17)海上漂流物の内訳は、例年通り、発泡スチロール(39%)、ビニール類(15%)、プラスチック類(7%)等の石油化学製品が多く、これらが全体の61%を占めていた。海上漂流物が目視された海域は、本州南岸(西部)1,564個、九州西部で1,749個と両海域で総目視数(3,900個)の85%を占めていた。

しかし今まで記述してきたように、海上保安庁による海上漂流物数をはるかに超える大量の漂着ゴミが、既に日本の海岸域を埋め尽くしている実態を明らかにしてきた。今まで日本で数えた漂着ゴミの1km当たりに換算した平均的数は4,386個となった。この総ゴミ数の内訳は日本製ゴミが606/km13.8%)、外国製ゴミが930/km21.2%)、不明ゴミが2,851/km65.0%)であった(後述する図7.1参照)。不明ゴミ数が60%台と総ゴミ数の半数以上を占め、日本製と外国製ゴミ数は1020%台であるが、外国製ゴミが確認された海岸数は全調査海岸数のほぼ8割に及んでいた。

 本章ではまず、これまでに分析提示してきた、日本列島における漂着ゴミに関する調査知見に基づき、判別可能な漂着ゴミと判別不能な漂着ゴミの構成・タイプや海岸域的特徴を考慮して、日本列島への漂着ゴミの発生産出源と漂流漂着ルートについて考察する。次いで200078月に実施したタイ王国全海岸域に亘る42海岸での漂着ゴミ調査の分析結果を提示し、日本列島での調査データとの比較において、タイ王国における漂着ゴミ実態と漂着ルートについて概説する。

 

7.2 判別可能な漂着ゴミのルーツ

日本最西端与那国島〜最北端宗谷岬に亘る海岸域でのこれまでの調査分析結果の整理より、東西約3,000kmに及ぶ日本列島の海岸域に漂着するゴミの数量・国籍・種類には近海の海流と密接に関連していることを解明し、漂着ゴミの構成・タイプには海岸域的特徴のあることを明らかにしてきた。ここでは、これらの調査知見に基づいて、日本の海岸域に漂着するゴミの産出発生源と漂流漂着ルートに関する考えを総括的にまとめる。

まず日本列島における漂着ゴミの国籍等に関する海岸域的特徴を調査実態より要約する。

@        南方から北上する黒潮海流ルート沿いの南西諸島、殊に沖縄県先島諸島(八重山諸島と宮古諸島)のほとんどの海岸域では、近隣諸国からの外国製ゴミが日本製ゴミを上回り約26倍の数量を占めている。その外国製ゴミの主体は中国と台湾製ゴミで、外国製ゴミ数の5070%に達し、韓国製ゴミが2030%程度占める国籍別割合になっている。また近年、先島諸島では漂着ゴミ量が年々増加する傾向にあり、主に中国製ゴミにその傾向が著しく認められる。

A        北上する対馬海流ルート沿い九州〜北海道の日本海近海上の離島では、数量的に外国製ゴミが日本製ゴミを圧倒している島が多い。殊に朝鮮半島に近接している長崎県対馬と壱岐の海岸域では、外国製ゴミが日本製ゴミの約310倍の数量を占め、その外国製ゴミの7090%が韓国製ゴミによって占められている。なお外国製ゴミの漂着数は、島が北に位置するほど徐々に減少し、北海道の利尻島と礼文島では逆転しており、日本製ゴミが外国製ゴミを数量的に上回っている。しかし日本海上離島の外国製ゴミの主体は、一貫して韓国製ゴミとなっている。

B        山陰から北海道に掛けての日本海・オホーツク海に面した内陸側沿岸域では、いずれの海岸域でも日本製ゴミの漂着が高く、数量的に外国製ゴミを上回っている。この外国製ゴミは漂着ゴミ数の1030%程度で、その主体はやはりA項と同様に韓国製ゴミで、数量的に外国製ゴミの6080%を占めている。

C        北陸付近の日本海側海岸域からロシア製ゴミが確認され始め、数量的には北上するほど徐々に増加する傾向が認められる。礼文島など北海道北端部やオホーツク海沿岸域では、韓国製ゴミに加えロシア製ゴミが外国製ゴミに30%程度混在している。

D        対馬海流が分岐して流れ込む津軽海峡沿岸域では、外国製ゴミと日本製ゴミの数量的比率はほぼ等しく、それぞれ20%程度で、その内韓国製ゴミが外国製ゴミの約80%を占め、南下する親潮海流に乗って東北・北関東の太平洋沿岸域まで回り込んで漂着している。

E        関東沿岸域などの太平洋側海岸域での漂着ゴミのほとんどは、日本製ゴミで、数量的には90%以上を占めている。

F        関東沿岸域〜三宅島〜八丈島〜硫黄島と太平洋沖合に向かうにつれて、漂着ゴミの主流は日本製ゴミから不明ゴミへとゴミのタイプが大きく変わり、東京から1,240km沖合の硫黄島では不明ゴミが漂着ゴミ数の80%に達している。この不明ゴミには関東沿岸域などの太平洋側の沿岸域から排出された日本製ゴミがかなり含まれていると推察される。なお太平洋沖合に点在する島々の外国製ゴミは、沖縄県先島諸島で確認される黒潮海流系の中国製ゴミが主体の構成となっている。

以上の調査知見から、日本列島における漂着ゴミは遠距離に亘り海流に乗って運搬されて漂着するゴミと、不当・不適切に処理されて日本の陸域や海岸域近傍から流出・排出して漂着するゴミに大別できることが分かる。特に沖縄県先島諸島や九州〜北海道に掛けての日本海沿岸及び近海離島など、外国製ゴミが漂着ゴミの主流を占める島々や大量の外国製ゴミが確認される海岸域では、ゴミ漂着の主因は中国、台湾、韓国、ロシアの近隣諸国から廃棄されたゴミの海流運搬によっている。

中国製と台湾製ゴミは南の島々、先島諸島を中心に大量に漂着しており、北海道沿岸域や太平洋沖合の島々までにも海流や沿岸流に乗って確実に漂着はしているが数量的には圧倒的に少ない。この実態から判断すると、中国と台湾製漂着ゴミの日本列島への主要な供給源は先島諸島以南と以北の近海域と推察される。何らかの要因で廃棄された両国のゴミが先島諸島近海・東シナ海上の両国領海内の海域から日本の領海へ浮遊・漂流し、黒潮海流や対馬海流に乗って北上しつつ列島全域に漂着してくると思われる。

一方、九州〜北海道海岸域や津軽海流沿岸域で大量漂着が確認される韓国製ゴミの最大の供給源は、朝鮮半島周辺の海域と推察される。北上する黒潮海流が奄美大島西部沖合で二つに分岐し、一方が対馬海流として大陸側日本海を北上する流路沿いに在る長崎県対馬と壱岐では、これまでの調査で最大の漂着ゴミ量が確認されている。しかもその圧倒的な数量を韓国製ゴミが占めている実態がある。またこの韓国製ゴミの漂着量は北陸、東北、北海道と北方に位置する海岸域ほど、漂流ゴミの漂着が進み、減少傾向を示している。即ち、南方からの黒潮海流が奄美諸島付近で太平洋と日本海側の二つの流路に分岐し、漂流ゴミも両海流に分かれ半減するかと思われるにも拘らず、対馬と壱岐で韓国製ゴミを主流とした漂着ゴミ量が激増することは、朝鮮半島周辺の海域で新たに大量の韓国製ゴミが対馬海流の流路沿いで供給されていることを示唆している。なお先島諸島など南の島々で、韓国製ゴミが外国製ゴミ数の30%程度確認されるのは、主に黒潮海流の戻り流と沿岸流に起因していると推察される。

ロシア製ゴミの漂着は、日本に漂着している中国製、台湾製、韓国製の外国製ゴミや日本製ゴミに比較して、漂着範囲も狭くしかも数量的にも非常に少ない。北陸以北の日本海側海岸域でよく確認され、北海道北端部の海岸域やオホーツク海沿岸域では、外国製ゴミ数の30%程度を占めている実態から、ロシア製ゴミの主な供給海域は日本海北部海域やサハリン州近海域と思われ、北から南下する宗谷海流やリマン海流に乗って漂着するものと推察される。

 

7.3 漂着ゴミルートを暗示する不明ゴミ

日本列島に漂着する近隣諸国からの外国製ゴミの供給海域とその漂着ルートについて考察してきた。さらに重要な事実は大量に外国製ゴミが漂着している海岸域ほど、不明ゴミの漂着も際立っていることである。逆に言えば、関東沿岸域(日本製ゴミが90%以上占める)に代表されるように太平洋側の海岸域など、漂着ゴミの判別がほとんど可能な海岸域では、日本製ゴミが大半を占めているため、不明ゴミが僅かとなる。即ち漂着ゴミが不明ゴミとなる最大の原因は、長期間・長距離に亘って海上を漂流することにある。そのため不明ゴミが多い海岸域では外国製ゴミも多く、漂着ルートは遠距離漂流型の海流運搬説が主流となる。この実態を最もよく表しているのが、沖縄県先島諸島での漂着ゴミ実態であった。

しかし太平洋沖合に点在する島々での不明ゴミの実態は先島諸島の場合と多少異なっている。関東沿岸域から三宅島、八丈島、硫黄島と沖合に向かうにつれて、判別可能な外国製と日本製ゴミの両者の比率が大きく低下し、不明ゴミの比率だけが圧倒的に高くなる。東京から1,240km沖合の硫黄島では外国製ゴミが9%、日本製ゴミが13%で、不明ゴミの比率が78%を占めている。この不明ゴミの増加は外国製ゴミの不明ゴミ化と同様に、日本製ゴミも遠距離漂流過程で不明ゴミ化するためである。このように、いずれにせよ判別不能な不明ゴミの漂着比率の高い海岸域ほど、漂着ゴミのルートは遠距離漂流型の海流運搬説によっており、その発生海域や漂着ルートは複雑で不可解となる。

これに対して、不明ゴミが少ないことは逆に判別可能なゴミが多いことで、このことは、漂着ゴミが不明ゴミとなる前に海岸域に漂着していることを意味している。即ち遠距離漂流型の海流運搬説よりもむしろ、漂着ゴミのルートは海岸域近傍・周辺から流出し再漂着した可能性が高くなる。まさに関東沿岸域でのほとんどが判別可能なゴミで、しかも90%以上を占める日本製ゴミの漂着実態はこのことを裏付けており、その漂着ルートは海岸域近傍・周辺にあることを示唆している。

このように、海岸域に漂着しているゴミの判別分析から不明ゴミの数量的比率を評価することは、漂着ゴミの発生・供給海域や漂流・漂着ルートを推察解明する際に重要なポイントとなる。

そこで、今までの全海岸での漂着ゴミ数を総計し、不明ゴミに着目してその実態について分析を試みる(図7.1)。前節で記述したように、今までカウントした総ゴミ数に占めている不明ゴミ数の割合は65%である。日本列島の海岸域に漂着しているゴミの半数以上が判別不能な不明ゴミとなっている。先にも述べたように、この不明ゴミの大半は、遠距離漂流型の海流運搬説による漂着ルートを裏付ける様に、最も遠距離漂流に適したプラスチック類ゴミ(79.3%)によって、占められている。

また不明ゴミとして漂着している確率の高いゴミはプラスチック類の66.1%とビン類の55.7%で、缶類は9.4%と極めて低い。即ち、プラスチック類とビン類は漂着しているものの半数程度は遠距離漂流型漂着と推察される。これに対して、缶類は漂着しているものの90%以上が判別可能なことから、漂着までの期間・距離は短く海岸域近傍・周辺型漂着と考えられる。なお漁具類が不明ゴミに占める割合はプラスチック類に次ぎ13.3%である。しかも漁具類ゴミのほとんど(92.9%)は不明ゴミとなっている。漁具類の不明ゴミの場合には、発泡スチロール製ブイや漁網塊は元来ほとんど表記文字等もなく、当初より判別不能な状態にある。そのため漁具類の不明ゴミは、遠距離漂流型かあるいは海岸近傍・周辺型漂着かを判定することは非常に難しく、他の漂着ゴミの国籍や種類分析を考慮して検討する必要がある。

以上のように、漂着ゴミの緻密な分析調査が、防止対策確立に不可欠な発生・供給源や漂流・漂着ルートの解明に繋がる重要な役割を果すものと考えられる。

 

7.4      日本とタイ王国での漂着ゴミルートの相違

7.4.1  タイ王国海岸域での漂着ゴミ実態

タイでの漂着ゴミの実態調査は200078月の間に実施した。日本での調査方法と同様、タイの全海岸域に掛けての42箇所で調査し(表2.2と図2.4参照)、漂着ゴミに占める外国製ゴミの割合や国籍別区分、漂着ゴミの種類別区分などの分析評価を試みた。

 タイの代表的海岸における漂着ゴミによる汚染状況を写真7.1a)と(b)に示す。やはりタイの多くの海岸も、日本の海岸と同様に、大量の漂着ゴミで覆われているのが実情である。特に漁具類のブイとして利用された発泡スチロールやその破片、ポリエチレン袋やペットボトル容器などの生活廃棄物が大量に漂着していた。その処理方法には、直接集積して焼却した「浜焼き」の痕跡が多くの海岸で確認された。42箇所の各海岸での漂着ゴミの分析結果を図7.2に示している。ここでは、漂着ゴミをタイ製ゴミとそれ以外の外国製ゴミに区分して、1km当りのゴミ数として表示している。漂着ゴミが著しく目立った海岸は、タイの東部地方ではSuanson Beach(表.2.2での10番)でゴミ数は約16千個/km、東南地方では Phadang Beach(表2.2での18番)で約1万個/kmであった。タイの海岸で確認された外国製ゴミは上述の両海岸で1553/kmと極くわずかで、ゴミのほとんどは自国から排出され漂着したタイ製ゴミであった(図7.2a))。漂着ゴミの種類はプラスチック類と発泡スチロールが圧倒的で、確認されたゴミ数の50%以上を占めている海岸が多い(図7.2b))。なお漂着ゴミの調査は人工物質を対象としているが、タイの海岸では木材や竹ザオなどの流木の漂着も非常に目立った(写真7.1)。

 

7.4.2 日本とタイでの漂着ゴミ状況の比較

日本とタイでの多くの海岸での漂着ゴミの調査を通して、現代の漂着ゴミの主体は、生活廃棄物類や漁具類などの人間の社会・経済活動から廃棄物された石油製品からなるプラスチック類がほとんどで、一端海洋に流出すると海流に乗って地球規模的汚染を引き起こすことになる。そこでまず、両国での調査結果を比較する前に、周知のことではあるが、漂着ゴミと重要な関連を持つ日本とタイにおける近海の海流などについて整理しておく。まずタイの総面積は514,000平方km。陸地面積は511,770平方km。日本の面積と比較するとタイの面積は約1.4倍である。人口は約6,000万人(日本の約0.5倍)。大陸側の国境は、北部・西部ではミャンマーと接し、東北部・東部・南部ではラオス、カンボジア、マレーシアと接している。海岸線の長さでは、日本の海岸線総延長距離約34kmはタイの10倍以上の長さである(表7.1)。タイの地形についてはインドシナ半島中央部に位置する。チャオプラヤ川が南北に貫流し、流域は広大な沖積平野を形成する。北部は山地といくつかの山間盆地、西部はミャンマーとの国境山脈、東部はコラートとよばれる低平な高原、南部はシャム湾とインド洋に面するマレー半島である。一方、日本はアジア大陸の東縁、太平洋北西部に連なる環太平洋造山帯の一部をなす列島で、国土は北海道、本州、四国、九州の4大島とその周辺の島々からなる。日本列島は山地が67%を占める山国で、平野部は少なく、急峻な山地を流れる短い河川が深い谷を刻んで地形に変化を与えている。山地は日本列島の大きな地帯構造に沿ってつくられており、太平洋側には1,5003,000m前後の高く険しい山々と深いV字谷が多く、日本海側には5001,500mくらいの低い山地や高原が並ぶ。タイの気候は熱帯モンスーン気候で半島部は熱帯雨林気候である。雨季は南西モンスーンの510月、乾季は北東モンスーンの112月、35月は暑熱となる。日本では北海道を除くと温帯モンスーン気候で、全般的に気温の変化が大きく、四季の移り変わりがはっきりしている。68月は南東モンスーンにより高温多湿となり多量の雨がもたらされる。113月は北西モンスーンにより日本海側は豪雪、太平洋側は乾燥する。地形の複雑さから、気温や降水量は季節や地域による差が大きい。年間降雨量の平均は1,7001,800mmである。

2章で概説したように、日本近海を流れる主な海流は黒潮海流、対馬海流、親潮海流である。南東から北上する黒潮海流は奄美諸島西側で分岐した一方が、対馬海流となって大陸側の日本近海を北上する。太平洋沿岸を北上した黒潮海流は関東沖合で北から南下する親潮海流とぶつかって合流し、蛇行しながら太平洋沖合に向う。日本の漂着ゴミはこれら近海の海流と密接に関連しており、近隣諸国からの外国製ゴミの漂着度合には地域的特徴が見出されている。一方、東南アジア海域での主な海流のおおまかなルートは図7.3に示している。タイの海岸域に漂着するゴミへの海流が果す役割は、タイ近海の海流の方向から判断して日本の海岸域に比較して小さいと推察される。むしろタイでは、インド洋に発生する台風によって近隣諸国からの外国製ゴミの漂着が考えられる。しかしタイの場合には、前述したように海岸に漂着しているゴミのほとんどが自国から排出されたタイ製ゴミである。調査結果ではタイ製ゴミと外国製ゴミの数量的割合は973であった。このようなデータから判断すると、逆に、タイでは国内から廃棄されたゴミが近隣諸国へ漂流し、海岸汚染を引き起こす可能性が懸念される。

 図7.4に日本とタイでの漂着ゴミをそれぞれ総計して、比較している。タイに比較して日本で、漂着ゴミによる海岸汚染問題が一層深刻であることが分かる。総ゴミ数を見ると、タイの海岸では、平均的には2,059/kmであるのに対して、日本では4,386/kmと約2倍の差異が認められる。日本の海岸域の場合には、外国製ゴミと不明ゴミがその主因となっている。しかし、タイの海岸域では、漂着ゴミの絶対数は少ないが、前述したようにそのほとんどが自国から排出されたタイ製ゴミである。日本ではプラスチック類の漂着ゴミが圧倒しているが、タイでは発泡スチロール製ブイとして利用された漁具類の漂着も目立った。以上の結果から判断すると日本では海流ルート、タイでは国内排出ルートが漂着ゴミの主要なルートのように推察される。

 

.5 むすび

 これまでの日本列島における漂着ゴミに関する実態調査の知見に基づき、近海の主要な海流との関連等から、漂着ゴミの海岸域的特徴を整理し、漂着ゴミの産出発生源と漂流漂着ルートについて考察した。日本列島への海岸漂着ゴミのルートには、海流運搬による遠距離漂流型ゴミと、海岸域近傍周辺から流出排出され漂着するゴミに大別されると考えられる。全国的に深刻な社会問題となっている海岸漂着ゴミ問題への根本的な防止対策を確立するためには、漂着原因である産出発生源と漂流漂着ルートの解明が先決となる。そのためにも漂着ゴミの国籍・種類等に関する構成・タイプを評価する詳細な分析調査を全国的に、しかも経年的に展開し、漂着ゴミの海岸域的特徴を一層鮮明に把握することが要求される。

 なおタイ全海岸域での漂着ゴミデータとの比較を提示したが、日本列島での漂着ゴミによる海岸汚染問題は、かなり切迫した状況にあることが理解できる。しかし自国からの排出ゴミが主流のタイ海岸の漂着ゴミ実態も一層深刻になることが懸念される。タイの海岸環境保全のためにも、調査結果を通し警鐘を鳴らしていくことが必要であると考える。