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応用分析化学 国内学会等 海外学会等 NIST留学記 NDA留学記

【報告-第12回】 2000年7月12日掲載 

~ 静かなる戦場 ~

- 殺気だつ学内 -
7月。カレンダーは折り返しに入りました。
現実の国際政治は、このところ台湾の新政権発足(5月)、
朝鮮半島の南北首脳会談実現(6月)など激動が続いています。

でも、私たち総合安全保障研究科の学生は、アジア安全保障のうねりが気になりながらも、
目先の論文のことで手一杯です。 進みぐあいにも個人差が出てきました。
すでに大量の資料を集めて論文を書きだした人、「理論か、歴史か」などと分析手法と格闘している人、 
まだ全体構想そのものが定まらずに悩んでいる人など、さまざまです。 







自習室で机に向かう同級生からは殺気も

学校で交わす会話の話題も、がらりと変わりました。 「どのくらい進んでいます?」「いい理論みつけましたよ」 「この資料どこで探せばいいんでしょう」……。 テレビ番組や休みの過ごし方なんかを気軽に話していた頃が、 なつかしく思われます。口を開けば、だれもが「忙しい」の繰り返しです。 自習室で机に向かう同級生の後ろ姿には、殺気さえ感じられます。 声をかけるのがはばかられるほどです。 両わきに和洋の文献をうずたかく積み上げ、メモを取ったり、パソコンをたたいたり。 「ふーっ」と漏れる深いため息、せわしなく本のページを繰る音、 自席と図書館をあわただしく往復する足音……。 自習室は、さながら「静かなる戦場」です。 - 「惨敗」の日 - 前回ご紹介したプロジェクト科目の発表当番が、6月中旬に回ってきました。 私が属するグループは「アメリカの政戦略」がテーマです。 学生5人を教官4人が指導してくださいます。 今回の課題は、「先行研究のレビュー・エッセーをまとめよ」 修論執筆に利用される端末室は資料の山

私の修論テーマは「日米同盟のコストとベネフィット」ですが、 この時点では、まだおおざっぱな構想の段階で、具体的な分析手法までは定まっていませんでした。 発表では、ひとまず、日米安保体制について書かれた 4つの先行研究の比較・分析を通して、自分の研究の方向性を示す内容にしてみました。 レポートをもとに説明後、教官から批判や意見をいただきました。 一番手厳しかったのは、わが指導教官の田所昌幸教授の指摘でした。 「あなたは、まだ学術論文のことがよくわかっていない」。 他の先生方の評価も惨たんたるものでした。 ここでは、社会科学の学術論文が いかに資料や論理を重視するものであるか、 客観的な文章を正確に書くことがいかに難しいか、ということを徹底してたたき込まれます。 本格的な作業を前にした、いわば洗礼のようなものです。 大学時代の学士論文に比べ、修士論文はレベルが違います。 私がもらった指摘の数々は、要約すると次のようなものでした。 (1)あいまいな用語の使い方が多い。 例えば、「相互性」「双務性」と「対等性」という概念は明らかに異質ではないか。 (2)日米関係について、日本が合理的な選択ができたかのように考えているが、 むしろ選択の余地がない権力関係ではなかっただろうか。前提自体を再検討すべき。 (3)方法論である分析枠組みがはっきりしていない。 どんな理論を使って日米関係を論じるのかが、明確ではない。 (4)政策決定者レベルでコストやベネフィットを論じるときに、 彼らは大事なものは隠して表に出さないという傾向がある。 公表資料から、それをうまく引き出せるだろうか。 (5)コストとベネフィットというが、認識の問題としてとらえるのか、 それとも実質のものとしてとらえるのかがあいまい。 また、コストに着目するというが、学術論文では基地を抱えれば国民の負担があるのは当たり前、 と言われかねない。justificationが必要。 次の作業は、分析の対象や手法の絞り込みです。 同盟のコストやベネフィットとは何か。 それらの概念を自分なりに規定し、どういう時期のどの資料を使って、何を導き出すのか。 悩ましい日々が続きます。 - ロケットのプロ・・・民間からの同期生 - 防衛大学校の大学院課程には、私たちの総合安全保障研究科(1学年約20人)とは別に、 40年近い歴史をもつ「理工学研究科」があります。 1学年約90人の学生が、2年にわたり電子、機械、航空宇宙工学など幅広い技術分野の研究をしています。 この課程も、民間に門戸を開いており、私と同じように部外から学びに来ている方が何人かいます。 そのおひとり「日本油脂」の早川茂之さんは、私と同期生にあたります。 - ●早川茂之さんインタビュー● - 私は日本油脂という化学メーカーから、受託教育の形で、 昨年から防大の理工学研究科にお世話になっております。 同じ「民間組」の理工学研究科・早川茂之さん

愛知県にある私の所属する工場では、ロケット用の固体推進薬 (H-2ロケットの固体ロケットブースターや、M-Vロケットなど使われている固体燃料) を製造しておりまして、その関係からこちらでも固体推進薬の燃焼に関する基礎研究をしています。 防衛大の理工学研究科(一般大学の修士課程に当たります)は、 設置されてから今年で39年目を迎え、来年度からは、 博士課程に当たる後期課程(修士課程は前期課程と呼ばれます) も設置されるそうです。 入校するまでは、防衛大の理工学研究科、といっても想像もつきませんでしたが、 内容は一般大学の修士課程と同等なのだそうです。 しかし、研究科の授業には防衛大ならではといったものもあり、 非常に貴重な講義を受けることができました。 学校を卒業して7年もたった頭には、授業ごとに与えられる課題や 学術的な研究内容はきついものがありますが、クラスメート(当然皆さん、幹部自衛官)達が 真剣に勉強に打ち込む姿に刺激を受けながら、『自分もがんばらねば』と言い聞かせてやっております。 また、こちらは設備の面でも充実しておりまして、 古さは感じるものの爆発実験やロケット実験を行う設備まであり、 学校と言うより研究所に近い雰囲気かもしれません。 最近は学会発表の準備や、読むべき論文を前に頭を抱え、 また日々の実験に頭を悩ませながら日々を送っております。
Q and A
 軍備管理の問題は、各国の現実的な国益がからんでくるだけに、とても複雑で微妙です。
 クリントン大統領自身が率先して署名しておきながら、議会の反対で批准に失敗した
 米国の包括的核実験禁止条約(CTBT)加盟問題は、そうした複雑さを物語る動きでした。 

 では、なぜ世界では、核保有を禁じる核不拡散条約(NPT、加盟187ヶ国)と同時に
 核実験そのものを禁じるCTBT(未批准)の2条約への加盟を求める動きがあるのでしょうか。

 どちらか一方だけ規制すれば、核開発の規制は十分のようにも思えます。 
 大きな理由の1つは、NPTが米ロなど核保有5ヶ国を特別扱いした不平等条約であるという批判が、
 非核保有国の間に高まっていることです。
 そうした不満に対し、5大国の実験を封じることで平等性を高め、
 核不拡散をより確実化させようとする動きと言えます。
 また、核を保有するためには実験の実施が不可欠ですが、NPTに加盟しながら
 こっそり核開発を進めるような国の出現を防ぐという役割も、CTBTには期待されています。 

次回は、この5月中旬、終文書に盛り込み合意した核不拡散条約(NPT)と、
昨年10月、米議会が批准を否決するなどした包括的核実験禁止条約(CTBT)との関係についての問題です。
双方はともに核開発に対する国際的な軍備管理条約ですが、どうして核開発を禁じたNPTがあるのに、
核実験を禁じるCTBTが必要なのでしょうか。ちょっと難問です。
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