応用科学群 応用化学科 火薬学 准教授 甲賀 誠 本文へジャンプ
研究内容


固体推進薬とは

研究テーマについて


火薬類は火薬爆薬火工品の3つに分類されています。

 
 当研究室では火薬に分類されている固体推進薬に関する研究を行っています。固体推進薬は、飛翔体内部に内蔵されています。推進薬は、燃焼器内で燃焼し、その燃焼ガスをノズルから噴出させることによって、飛翔体を飛行させるための燃料です。
(図1)


 固体ロケットモータの概略図


 固体推進薬とは
 固体推進薬は、無煙推進薬コンポジット推進薬に大きく区分され、大型ロケットの補助ブースタ、中・小型ロケットの主燃料、軍事用としては誘導弾の燃料として使用されています。
 無煙火薬の主成分はニトロセルロースとニトログリセリンです。コンポジット推進薬の主成分は粉末酸化剤と燃料兼結合剤(バインダー)である高分子化合物であり、それに可塑剤、金属燃料、燃焼触媒などを混合し、それらを練り固めたものです。
 飛翔体の燃料である固体推進薬は、その用途に応じて多様な性能が要求されます。例えば、推進薬は高速で燃焼させて、短時間に大量の高温燃焼ガスを放出できれば、飛翔体を高速で飛行させることができます。そのために、高燃焼速度の推進薬が必要とされています。また、飛翔体の発射や旋回時、推進薬には大きな応力が生じます。その応力に耐えられず、推進薬の亀裂等が発生すると、必要な性能を発揮できなくなってしまいます。したがって、推進薬には、その大きな応力に耐えられるだけの機械的特性が必要となります。
 多様な要求性能に対応できるような推進薬を製造するための基礎的研究をしています。
 TOP


 研究テーマについて
   1. 過塩素酸アンモニウム系推進薬に関する研究
   2. 燃焼機構に関する研究
   3. 硝酸アンモニウム系推進薬の関する研究
   4. 推進薬バインダーの高性能化に関する研究
   5. 火薬類の爆轟に関する研究
   6. その他


1.過塩素酸アンモニウム系推進薬推進薬に関する研究

先ほど説明したように、推進薬は高速で燃焼して、短時間に大量の高温燃焼ガスを放出できれば、飛翔体を高速で飛行させることができます。現在コンポジット推進薬の酸化剤として、過塩素酸アンモニウム(AP)が最も広く使用されています。AP系コンポジット推進薬の燃焼速度は、そのAPの平均粒子径が小さくなるほど増加します。しかし、AP粒子の特性上、一般的に使用されている粉砕では微粒子は調製できません。凍結乾燥法や噴霧乾燥法によって、微粒なAP(2)を調製しました。

また、晶癖変化させたAPを調製(3)しました。晶癖変化したAPのほとんどは樹枝状の粒子形状をしていましたが、立方体の粒子も調製できました。これらのAPを用いることによって、高燃焼速度の推進薬を製造できました


   図2 凍結乾燥法又は噴霧乾燥法で調製された微粒AP

  図3 晶癖変化させたAP

2.燃焼機構に関する研究

AP系コンポジット推進薬の高性能化のために、その燃焼機構についての研究が行われています。しかし、未だに詳細なデータが整っていないのが現状です。熱分析や高圧下での燃焼実験等を行って、実験データの収集・解析をしています。
 図4は大気中で燃焼させた推進薬の写真です。推進薬の燃焼形態は、酸化剤の粒子径によって異なります。3μmの微粒なAP100μmの粗粒なAPを用いて製造した推進薬を燃焼し、その燃焼を強制的に中断させ、電子顕微鏡で燃焼表面を観察しすることによって、燃焼形態を調べています。図5は、中断燃焼させた燃焼表面の写真です。燃焼圧力やAP粒子径の差によって、燃焼表面の状態が異なっていることがわかります。


 
 図4 推進薬の燃焼(大気圧)

   
   (b-1)燃焼圧力1MPa
     
 (a-1)燃焼圧力1MPa  (a-2)燃焼圧力6MPa    (b-2)燃焼圧力4MPa
  (a)粗粒APを用いた推進薬    (b)微粒APを用いた推進薬
5 中断燃焼させた推進薬の燃焼表面   

3.硝酸アンモニウム系推進薬に関する研究

環境に優しいコンポジット推進薬の酸化剤として、硝酸アンモニウム(AN)が注目されていますが、未だ実用化できないのが現状です。その理由として、常温付近に結晶転移点があること、また燃焼速度が遅いこと等があります。AN系推進薬の燃焼特性に関する基礎的な実験を行い、その結果に基づいて、AN系推進薬の高燃焼速度化に関する研究を行っています。


4.推進薬バインダーの高性能化に関する研究

推進薬バインダーとして、多くの高分子化合物が研究され、機械的特性に優れた末端水酸基ポリブタジエンが最も広く使用されています。現在、推進薬の高性能化のためにバインダーの高エネルギー化に関する研究が行われています。高エネルギーを持つ高分子化合物として、アジド基を持つアジ化ポリマーが注目されています。

バインダーの高性能化には、高エネルギー化だけでなく、機械的特性の改善も必要です。さまざまな視点から、バインダーの高性能化に関する試みを行っています。


5.火薬類の爆轟に関する研究
 火薬や爆薬によって爆発が起きた時に、どのような効果があるかを研究しています。下の写真(図6)は、爆薬を充填したガス管の爆発実験における供試体の写真です。(a)は実験前の供試体の写真です。(b)は爆轟後に生じたガス管の破片です。破片の厚さは圧縮されて薄くなり、また、破断面は鋭く尖っていることがわかります。この試料の爆轟速度は約9000 m/sです。(c)は不爆の際における供試体の写真です。
     
(a) 爆発前 (b)爆発後 (完爆) (c) 爆発後 (不爆)
図6 爆発実験   

6.その他
 防大タイムズにも研究紹介があります。  
         「固体推進薬の高性能化ー燃焼速度の高速化への試み」
   防大タイムズ(2010年1月号)にジャンプ


TOP