題名:ジオテキスタイルを排水材として用いた粘性土盛土の安定化に関する研究

要旨:

 我が国には,火山灰質粘性土に代表される高含水比の粘性土が広く分布しており,盛土材料として利用されることが多い.ところが,このような粘性土は,透水性が低いために盛土施工時に過剰間隙水圧が発生し,のり面のはらみ出しなど盛土の安定性に問題が生じることが多い.そのため,盛土内に水平排水層を適当な間隔で設置して,発生する過剰間隙水圧を速やかに消散させ,盛土の圧密を促進する水平排水工法が供用されている.  従来,水平排水工法では,砂や礫などの自然材料が排水材として使用されていたが,1970年頃からジオテキスタイルの有効性が着目され,そのなかでも高い透水機能と分離機能を有する不織布が排水材として多く使用されるようになった.盛土内に水平に配置される不織布には,盛土の自重が拘束圧として作用し,細粒径の土粒子を含んだ水が流入するために不織布の通水性能が低下し,当初想定した圧密促進効果が得られなくなる.このため,不織布を排水材として用い,盛土を安定化する場合には,盛土材の力学的特性や施工条件の検討に加えて,不織布の通水性能の評価が重要となる.また,盛土が所定の機能を発揮するために必要となる排水層の配置条件を評価し, 排水層を効率良く配置することが必要となる.

 本研究は,排水層内の目詰まりによるドレーンレジスタンスの影響を生じさせることなく, 盛土の安定性を確保するための排水層の配置条件を評価し,その条件を満足する排水層の配置長さと間隔の組み合わせの中から, 排水材使用量を最小化する設計法の確立を目的としている.まず,水平排水層の圧密促進効果の検討に基づき, 拘束圧の大きさおよび目詰まりの進行が不織布の通水性能に及ぼす影響を室内試験より明らかにしている. 次に,ドレーンレジスタンスが圧密促進効果に及ぼす影響の評価法,ならびに水平排水層が配置された盛土の安定解析法を検討し, 最後に,最適化手法の考え方を援用して,水平排水層の配置の決定法を提案している.本論文の主な内容は以下に示すとおりである.

 第1章では,具体的な検討課題を整理し,本論文の目的と構成を示した.

 第2章では,実盛土における水平排水層の圧密促進効果を,盛土内の間隙水圧の挙動に着目した現場計測より検討した. まず,排水層を盛土内に配置することによって,施工終了時に最大になる間隙水圧を低く抑えることができ, その後の間隙水圧の消散を促進できることを明らかにした.そして,排水層の水平距離が長くなる場合には, 不織布と砕石を併用した複合排水層が有効となることを示した.

 第3章では,拘束圧の作用や目詰まりの進行に伴い変化する不織布の通水性能の変化について,室内実験より検討した. 不織布の通水性能は,目詰まりの程度に関わらず,拘束圧の増加に伴い指数関数的に減少することを明らかにした. また,繊維密度が大きい不織布は,未使用状態で高い通水性能を示すが, 目詰まりの進行に伴う通水性能の低減量は大きくなるという新たな知見を得た.

 第4章では,水平排水層におけるドレーンレジスタンスが圧密促進効果に及ぼす影響について, 解析的に検討した.まず,排水層が配置された盛土内部の間隙水圧の予測式を2次元圧密方程式の解として誘導し, その有効性を実盛土の解析より検証した.次に,予測式を用いた数値計算より, ドレーンレジスタンスの影響が無視できる条件を明らかにして,水平排水層に必要とされる通水性能の算定式を誘導した. そして,その有効性を8つの実盛土の計測結果との比較から検証した.

 第5章では,水平排水層が配置された粘性土盛土の安定解析法を提案した. まず,排水層配置領域に平均的な水平方向透水係数khを算定し,弾塑性圧密解析と水−土骨格連成剛塑性極限解析を 2段階で行う安定解析法を提示した.そして,khと排水層の長さを変化させた解析結果より,提案した解析法は, 排水層の配置条件によって変化する盛土の安定性を合理的に評価できることを示した.

 第6章では,排水層の最適配置法を検討した.まず,土中において発揮される不織布の通水性能を, 拘束圧の大きさと不織布に流入する圧密排水量より評価する手法を示した. 次に,ドレーンレジスタンスの影響を生じさないための排水層の配置条件と, 盛土斜面が所定の安定性を確保するための排水層の配置条件を不等式で評価する手法を示した. そして,排水材使用量を間接的に表す目的関数を,上述の2つの不等式を含む制約条件のもとで最適化することによって, 排水層の配置を決定する設計の基本的な考え方を提示した.さらに,現行の設計法との比較計算より, 本提案法は排水材の使用量を節減できることを示した.

 第7章は,各章で得られた結論をまとめた.