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〒239-8686 神奈川県横須賀市走水1-10-20
防衛大学校 応用化学科 応用物理化学研究室

研究内容 「氷・アモルファス氷の圧力誘起相転移」

新しい氷の探求

代表主著者論文
Y. Yoshimura, S.T. Stewart, M. Somoyazule, H.K. Mao, and R. J. Hemely
"High Pressure X-ray Diffraction and Raman Spectroscopy of Ice VIII"
(J. Chem. Phys., 124, 024502 (pp.1-7) (2006))

【概要】
氷は高圧力下で色々と構造をとる。例えば2万気圧以上では氷の相図は単純になり、氷Ic構造が別の氷Ic構造の中に入り込んできた、いわゆる貫入氷構造(氷VII, VIII)を取る。ちなみに太陽系では、木星よりも以遠の惑星は、この貫入氷構造でできていることが示唆されている。さらに加圧していくと、水素結合している水素原子が酸素原子間のちょうど中間にくる、対称氷(氷X)になることが知られている。ところで、氷は比較的結合角や結合長が変化しやすい水素結合からなることから、氷を生成する際の条件、温度、圧力のパス等を工夫するとまた違った構造の氷や相転移現象を示すことが十分期待される。


不純物を含む氷の圧力相転移

代表主著者論文
Y. Yoshimura, H.K. Mao, and R. J. Hemely
"Transformation of Ice in Aqueous KCl Solution to a High-Pressure, Low-Temperature Phase"
(Chem. Phys. Lett., 400, 511-514 (2004))

【概要】
最近、海底に存在するメタンハイドレートについて話題になっているが、関連して氷の包接化合物(クラスレートハイドレート)を用いてメタンや二酸化炭素のガスの貯蔵等を行うプロセスに注目が集まっている。包接化合物の水分子による水素結合の三次元的なネットワーク構造は、氷のものと似ていると考えられているので、一部の包接化合物も、氷Ih(いわゆる冷蔵庫の氷、6員環構造をとる)の場合と同様に圧力を加えることにより(高密度)アモルファス状態になることが報告されている。本研究を行うにあたり、同様に電解質水溶液の氷も、加圧によりアモルファス状態になるのではないかと考えた。常圧下で電解質水溶液を冷却して凍らせた場合、いわゆ固溶体は形成せず、水素結合しやすい部分の水のみが、結晶を形成し、塩を含む部分の水は氷とならず氷から分離するからである。さらに、なんらかの転移が起こるのであれば、純粋な水と比較してかなり低い圧力で起きるのではないかと予想した。
 このことについて、クライオスタットを組み合わせたダイヤモンドアンビルセル装置を用いて、代表的な電解質水溶液について調べた。常圧下で急冷することにより、氷を生成し、その後液体窒素温度で加圧したところ、塩の種類によりアモルファス化するもの、あるいはアモルファス化せずに直接高圧氷である氷VII相(氷Ihが貫入した構造をとる)に転移するものがある事を発見した。
【独創性】
 通常、水と塩類は固相、すなわち氷では固溶体をつくることはできないので、氷の格子構造の中に塩が入ることはないと考えられる。それにも関わらず。このような塩の違いにより結果が異なるという事実は、極めて興味深い。おそらく、それぞれの電解質水溶液中の氷の結晶粒界面では、急速冷却により、擬構造体のようなものができており、それが転移の前駆体になっているものと思われる。
【科学(技術)に対する貢献度】
 地球の一部や惑星の主構造体及びその表面は、このような塩類を含んだ氷からできており、生命の起源や進化を考える上でも重要な結果であると考えられる。

水の準安定相図(液体―液体相転移)

〜低温・高圧力下での過冷却水の液体ー液体相転移仮説と水のイオ情勢の関連〜
代表主著者論文
Y. Yoshimura, H.K. Mao, and R. J. Hemely
"In-situ Raman Spectroscopy of Low Temperature / High Pressure Transformation of H2O""
(J. Chem. Phys., 126, 174505 (pp.1-9) (2007))

【概要】
身の回に豊富に存在する水は、我々の生活になくてはならない存在であるが、その物性値が他の液体に比べて実は異常であることが、一般的には広く知られていない。この水の低温異常性の物理的期限については、水素結合の多様性のためもあり、未解決なかつ重要な問題となっている。水の特異な現象の1つとして、低温・高圧力下において低密度と高密度の少なくとも2つのアモルファス(氷)の状態が存在することが知られている。


 最近、この事実から、高圧力下での過冷却に液体ー液体間の一次相転移が存在し、この状態の異なる2種類の水の存在が水の異常性の原因であるとする、革新的な仮説が提案された。(図の◎はSimulationから得た、いわゆる第二臨界点の位置(0.1 GPa, 220 K))しかしながら、この領域(図のTX:非晶質氷の結晶化温度とTH:均質核生成温度の間)では、過冷却の結晶化が容易に起きるため、この説についての直接的な実験的証拠は、未だ得られていない。本研究では、この問題に取り組んだ。
【独創性】
 実験的には、大きな挑戦となるが、用いる試料の量、実験装置、温度ー圧力パス(図のpath (1)〜(3))等の条件を巧妙に設定し、上述の液体ー液体相転移仮説に関連して、これまでに知られていた低密度アモルファス氷ー高密度アモルファス氷間の可逆相転移とは全く異なる新しい転移挙動を発見することに成功した(path (4))。関連して高密度アモルファス氷を出発点とする他の様々な転移現象を発見した。(図のpath (3)' (4)')
【科学(技術)に対する貢献度】
 関連して液体ー液体相転移仮説を必要とせずに、ほぼ一世紀にわたる未解決なかつ重要な問題であった、過冷却状態での水の異常性についての新しい解釈を提案した。今後、水の利用(技術)における基礎としても期待できる。

【その他関連する論文】
・The Strong Hydrogen Bonds in High-Density Amorphous Ice at High Pressure
 (Chem. Phys. Lett., 349, 51-56 (2001))
・Pressure-induced Amorphization of Ice in Aqueous LiCl Solution
 (J. of Phys.: Condensed Matt., 14, 10671-10674 (2002))
・Direct Transformation of Ice VII' to Low-Density Amorphous Ice
 (Chem. Phys. Lett., 420, 503-506 (2006))
・In-situ Raman Spectroscopic Study of the Reversible Transition between Low-Density and High-Density Amorphous Ice
 (J. of Phys.: Condensed Matt., 19, 45214 (pp.1-6) (2007))

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