本文へスキップ

〒239-8686 神奈川県横須賀市走水1-10-20
防衛大学校 応用化学科 応用物理化学研究室

研究内容 「生体(モデル)物質の凍結保存の研究」

極限環境下でのタンパク質の構造と水の状態

【はじめに】
 これからはますます遺伝子工学が盛んになると予想される。その際、例えば多くの植物品種の遺伝子を持っていることが必要になる。なぜならば、多くの植物の種子は数年経つと発芽率が大幅に減少するからである。2000種以上といわれている。凍結保存ができるようになれば、自分の血液を採取して凍結保存しておけば、他人からの輸血を通しての肝炎やエイズ等の感染を防ぐことができる。
 生物や植物の細胞をうまくガラス化すると、生きたまま半永久的に保存できるのではないかと考えられる。この目的のため、これまでに(予備的研究として)色々水溶液のガラス化や過冷却挙動を調べてきた。今後、目的に対する最適条件等を求めて研究を進めたい。特に、これまで培ってきた圧力というパラメータを積極的に使うことにより、制御することができるのではないかと考えている。

凍結保存のための方法
・氷の結晶が生成しないようにする。(過冷却、凍結調整物質、ガラス化、加圧融解操作)
・生成する氷の結晶のサイズをできるだけ小さくする。(冷却速度、圧力移動凍結)
・ガラス化させる:水は非常にガラス化が難しい物質(急速凍結)

【低温・高圧を用いた凍結保存】
糖や塩などの凍結保護剤を用いた低温状態におけるタンパク質などの生体分子の構造安定性とその機能発現に関する研究は、正常なタンパク質や細胞の長期保存の技術開発や人工授精の基礎研究として医薬や食品加工の分野で展開されている。一般にタンパク質はー10度付近で、水分子の氷核生成により天然構造が破壊され低温変性を生じる。しかし、糖や塩を含む水溶液は水分子との水和により氷の生成温度を下げる効果(凝固点降下)を示すため凍結保護剤として用いられる。


 近年、更なる凍結保存の手法として、液体窒素温度(−196度)での生体分子の保存に関する研究が注目されている。その理由として、極低温環境下において糖や塩水溶液はアモルファス状態を形成するため低温凍結保存の最大課題である氷の生成を抑制することが挙げられる。しかしながら、この温度条件におけるタンパク質の立体構造(二次構造や三次構造)安定性やタンパク質周辺の水和構造に関する系統的な知見は得られていない。また、低温凍結保存を行う上での本質的課題である低温状態から昇温過程においてのタンパク質の立体構造変化及び、アモルファス状態における最適構造安定温度了以浮きの存在についての研究は皆無である。その理由として、低温状態からの昇温過程におけるタンパク質自身の立体構造の変化や周辺の水和構造変化を追跡することが技術的に困難であった事が挙げられる。近年の技術構造に伴う分析機器は、これらの問題を解決すことが可能である。上右図には、ある塩水溶液の液体状態及び低温条件下(結晶及びガラス状態)におけるOH伸縮振動モードのIn-situラマンスペクトルをしめしている。
 一方、最近、高圧力を用いた水及び水溶液のアモルファス化関する研究が注目され、低温(ー196度)低圧(200 MPa)条件下では水はアモルファス状態を形成することが明らかにされた。この結果は高圧力を用いた新しい凍結保存方法の可能性が大いに期待される。タンパク質などの生体分子に対する圧力応答性として、一定圧力下ではタンパク質が圧力変性を生じることが報告されているが、我々は、これまでに様々なペプチドやタンパク質の立体構造安定性に及ぼす圧力効果を検証し、比較的低圧(300 MPa以下)では、天然状態を保持していることを明らかにした。それゆえ、前述した低温低圧下における水のアモルファス化と低圧下でのタンパク質の立体構造保持能力を組み合わせることで極限環境下における新規の生体分子長期凍結保存方法の技術開発が期待される。

【関連する論文】
・低温凍結状態における球状タンパク質の二次構造変化
 (低温生物工学会誌, 56, 23-26 (2010))
・α/β-、β-タンパク質の低温誘起の二次構造変化に関する研究
 (低温生物工学会誌, 57, 51-54 (2011))
・Preserving Proteins under High Pressure and Low Temperature
 (in Protein Structure, InTech Publisher, Croatia, Chap.10, pp.229-248 (2012))
・ Possibility of Protein Preserving Solvent under High Pressure
 (High Press. Res., 33, 265-270 (2013)


shop info店舗情報

防衛大学校 応用化学科 応用物理化学研究室

〒239-8686
神奈川県横須賀市走水1-10-20
TEL.046-841-3810
FAX.046-844-5901