第3章	黒潮海流沿い南西諸島の漂着ゴミ実態


3.1      はじめに

九州地方最南端鹿児島県佐多岬沖合から、太平洋と東シナ海を隔てる離岸堤の様に、約一千二百kmに亘って南西諸島の島々が台湾近海まで連なっている。南西諸島は鹿児島県と沖縄県にまたがる島々から形成されており、与論島と沖縄本島との間の海域に県境がある。南方からの黒潮海流は南西諸島の西部近海、東シナ海上を北上しており、その流路近傍に当たる南西諸島の島々では、海流によって運ばれてくる近隣諸国からの外国製ゴミが大量に多くの海岸に打ち上げられている実態がある。

そこで南西諸島では、黒潮海流が運搬する近隣諸国からの外国製ゴミの漂着実態を詳細に解明することに力点を置いた。八重山諸島(与那国島、波照間島、西表島、竹富島、黒島、石垣島)、宮古諸島(宮古島、多良間島、池間島、伊良部島)、沖縄諸島(沖縄本島、伊平屋島、粟国島、久米島)からなる琉球諸島の13島を対象に、1998年春季(34月)から本調査を開始し、毎年2回春季と夏季(8月)に、設定した海岸での定点的調査を継続してきた。琉球諸島の調査では、漂着ゴミの季節的変動傾向や経年的推移傾向を把握するために、年2回の春季と夏季調査及びそれを継続した長期的調査を試みてきた。また南西諸島の北端部での調査としては、鹿児島県屋久島を対象に199911月に実施している。

そこで本章では、このような一連の調査データに基づいて、黒潮海流沿い南西諸島の島々での漂着ゴミ実態について論述する。

 

3.2 南西諸島の漂着ゴミ実態

黒潮海流が運ぶ漂着ゴミの洗礼を日本で真っ先に受ける八重山諸島や宮古諸島の沖縄県先島諸島の多くの海岸では、大量漂着ゴミが襲う信じ難い海岸汚染の光景に幾度となく遭遇してきた(写真3.13.2)。容易に目に付く漂着ゴミには中国製や台湾製ゴミを主流とした近隣諸国からの外国製ゴミが大量に含まれている(写真3.3)。先述したように、沖縄県の島々では1998年から毎年2回春季(34月)と夏季(8月)にほぼ設定した海岸を対象に調査している。2001年夏季までの琉球諸島での全調査データの分析に基づき、また南西諸島の最北端部に位置する鹿児島県屋久島のデータを加味して(図3.1)、ここでは、南方から北上する黒潮海流とそのほぼ1,200km範囲に及ぶ流路沿いに当たる島々での漂着ゴミ実態との因果関係について詳述する。

琉球諸島の調査記録では(表3.1)、調査海岸数は1998年に33(春16/17)海岸、1999年に5927/32)海岸、2000年に7734/43)海岸、2001年に6424/40)海岸で延べの総調査海岸数は233海岸に達する。これを調査海岸距離に換算すると延べ139.68kmに及ぶ。琉球諸島の調査では、黒潮海流系漂着ゴミの数量・構成・タイプの季節的及び経年的推移傾向も把握することが大きな目的の一つとなっていることから、毎年春季と夏季の二回の調査では、主要な島々では予め設定した多くの海岸で定点観測を実施している。

屋久島6海岸のデータを加え、琉球諸島11233海岸で調査した漂着ゴミ数の延べ総計(総ゴミ数)を、各島ごとに整理したのが表3.2である。12239海岸で確認された総ゴミ数は610,989個で、その内訳は日本製ゴミ数が36,523個(6.0%)、外国製ゴミ数が150,213個(24.6%)、不明ゴミ数が424,253個(69.4%)で、琉球諸島を中心とした南西諸島では、平均的には外国製ゴミが日本製ゴミを数量的には遥かに上回り4.1倍となっている。総調査海岸距離142.58kmで除し1km当たりの平均的なゴミ数を算出すると、総ゴミは4,285/kmで、その内日本製ゴミが256/km、外国製ゴミが1,054/km、不明ゴミが2,975/kmを占め、外国製ゴミが千個/kmを超えている。今まで数えた外国製ゴミ150,213個の内訳を見ると、中国製ゴミが70,393個、台湾製ゴミが32,713個、韓国製ゴミが37,641個で、外国製ゴミ数のそれぞれ46.9%、21.8%、25.1%を占めている。殊に中国製と台湾製ゴミ数の両者で外国製ゴミ数の約70%に達し、1km当たりの漂着数は723/kmとなり、256/kmの日本製ゴミ数の実に2.8倍となっている。

次に各島々で今までの調査データを総計して島間での漂着ゴミの数量・構成・タイプを比較すると、南西諸島での黒潮海流系漂着ゴミの実態がよく理解できる(図3.2)。台湾に隣接している日本最西端の与那国島の漂着数が琉球諸島の中でも突出していることが分かる。1km当たりの漂着ゴミ数は1万個を超え12,481/kmで、次に漂着数の高い6,075/kmの石垣島と6,493/kmの宮古島の2倍程度にも達している。他の島々では5千個/km以下で、八重山諸島の竹富島・黒島・波照間島、沖縄本島、屋久島では1千台個/km以下となっている。同じ八重山諸島の中でも、小さな竹富島と黒島は西表島と石垣島に挟まれる様に在ることや、波照間島は西表島の南方にかなり離れて位置していることなど、島の立地環境が漂着ゴミの数量的相違にも反映されていると考えられる。また沖縄本島の以西には先島諸島などの島々が点在し、さらに奄美諸島やトカラ列島との連なりで屋久島が在る。黒潮海流に乗った漂流ゴミの島々への漂着は、当然、海流の北上と共に徐々に促進されると思われる。両島で確認された漂着ゴミ量の状況には、このような島の位置が関連しているものと推察される。ただし沖縄本島では、島西側の海岸域はほとんどホテル・リゾートビーチなどが連続する観光スポットが多く、海岸清掃が行き届いているため漂着ゴミの実態を適切に把握することができなかったことから、多少限られた北東側海岸域の調査データを整理している。

上述したように各島間での漂着ゴミは数量的にはかなり異なっているが、漂着ゴミの構成・タイプをみると、島間での大きな差異はほとんど認められない。まさに、このことは南西諸島への漂着ゴミの主流は、黒潮海流に乗って運搬される同一流路上の漂流ゴミであることを物語っている。いずれの島でも総ゴミ数に占める日本製と外国製ゴミの数量的比率は、それぞれ10%台以下と1020%台で外国製ゴミ数が上回り、不明ゴミ数が半数以上の6070%台を占めている。外国製ゴミに対する日本製ゴミ数の比率が最も高いのが与那国島の5.8倍で、西表島が5.5倍、石垣島が4.2倍、宮古島が3.5倍で、沖縄本島と屋久島はそれぞれ1.3倍と1.5倍であった。この外国製ゴミの国籍別割合を見ると、いずれの島でもやはり、中国製ゴミの占める割合が3050%台と最も多く、台湾製と韓国製ゴミの比率がほぼ1020%台を占めており、中国製と台湾製の両ゴミ数は外国製ゴミ数の6070%台に達している。また各島の漂着ゴミの主流は、やはり海流運搬に最適な遠距離漂流型の特質を備えたプラスチック類ゴミで、7080%台を占めている。なお漂着ゴミの種類を日本製ゴミ、外国製ゴミ、不明ゴミでそれぞれ分けて比較すると、多少異なった傾向が認められる(図3.3)。いずれの島でも外国製ゴミの場合には、一層プラスチック類ゴミの漂着比率が高く、90%近くがプラスチック類となっている。不明ゴミの場合も同様で、7090%台と大半をプラスチック類ゴミが占めている。この実態は、南の島々に漂着する外国製ゴミの主流は黒潮海流系の遠距離漂流型ゴミで、それに最適なタイプはプラスチック類ゴミであることを意味している。同様にプラスチック類ゴミが大半を占める不明ゴミもまた、ほとんどは海流運搬による遠距離漂流型ゴミによって構成されており、これには相当量の不明ゴミ化した外国製ゴミが含まれていることを暗示している。そのため日本製ゴミの場合には、外国製と不明ゴミの場合の様に、漂着ゴミに占めるプラスチック類ゴミの比率は一様に高くはない。しかしやはり、ほとんどの島々で日本製ゴミの半数程度はプラスチック類ではあるが、缶類とビン類の漂着数もかなり高い。日本製ゴミでは缶類が2040%台、ビン類が1020%台を占めている島が多いが、外国製と不明ゴミではビン類と缶類がそれぞれ10%以下と数%以下となっている。プラスチック類に加え缶類やビン類の漂着数の高い日本製ゴミは、漂流過程で沈積して不明ゴミ化する可能性が低く、海流運搬よりはむしろ海岸域や近海の船舶などからポイ捨て的に廃棄され、島近傍や周辺海域から漂着したものと考えられる。

 

3.3 漂着ゴミの季節的・経年的推移状況

琉球諸島では1998年春季から2001年夏季の時点までに8度の調査を実施している(表3.3)。各島々での調査概要は既に表3.1に記述している。与那国島、西表島、石垣島では春季と夏季の毎回、竹富島、宮古島、沖縄本島では今まで5回の調査を行っている。八重山諸島や宮古諸島の海開きは2月と早いが、春季調査はオフシーズンを経た3月下旬〜4月上旬、夏季調査は7月下旬〜8月である。

ここでは、琉球諸島11島での調査データを総計し年ごとに春季と夏季に区分して、漂着ゴミの季節的・経年的推移傾向をみる(図3.4)。次に今まで5回以上調査を実施してきた与那国島、西表島、竹富島、石垣島、宮古島、沖縄本島の6島を対象に、島ごとにその推移傾向を詳述することにする(図3.5)。

琉球諸島11島での今まで4年間8度の調査(延べ233海岸、総調査海岸距離139.68km)で数えた漂着ゴミの総数は606,132個で、その内外国製ゴミが149,443個(24.7%)、日本製ゴミが36,001個(5.9%)で、不明ゴミが420,688個(69.4%)であった。外国製ゴミの内訳は中国製ゴミが69,984個、台湾製ゴミが32,547個、韓国製ゴミが3,491個で、外国製ゴミに占める数量的比率はそれぞれ46.8%、21.8%、25.1%であった。季節的・経年的推移傾向を十分に把握するためには調査をさらに長期的に継続する必要はあるが、今までの4年間の調査データを介して、漂着ゴミの推移傾向を推察すると、まず各年で夏季に比較して春季調査で漂着ゴミ数が多く、しかも漂着ゴミ数は年々徐々に増加傾向にあることが分かる(図3.4a))。特に春季の場合、1998年(総ゴミ数1,749/km)に比較し1999年(5,407/km)には3.1倍、2000年(8,482/km)と2001年(7,079/km)にはそれぞれ4.8倍と4.1倍に激増している。夏季の場合には多少増加傾向は鈍るが、それでも1998年(2,001/km)に比較してその後の三年間に1.8倍(3,568/km)、2.5倍(4,973/km)、3.3倍(6,521/km)と確実に増加している。夏季に比較して春季調査で高い漂着ゴミ数が確認される要因は、主要海岸以外は秋〜冬場に掛けては南の島々でもほとんどオフシーズンの海岸が多く、春先の海開きまで海岸清掃の行われる海岸が少ないためと思われる。そのため秋〜春の時期は夏季に比較して偏西風が強く吹き破天荒の頻度も高いことから、春季調査では強風・荒波の効果で浜辺に打ち上げられたままの大量漂着ゴミの光景に度々遭遇する。やはり夏季調査では漂着ゴミの「浜焼き」跡などの痕跡が多数認められる海岸に遭遇する機会が多く、そのため春季に比較して調査での漂着ゴミ数が見掛け上、低減しているものと思われる。しかしこれでも琉球諸島の漂着ゴミ実態は季節的・経年的に着実に増加傾向にあると言える。なお漂着ゴミの構成・タイプの推移をみると(図3.4b)〜(d))、不明ゴミ(6070%台)とプラスチック類ゴミ(6080%台)を主流とした総ゴミ数の構成・タイプには、明瞭な季節的・経年的差異を読み取ることは難しいが、ただ2000年春季調査以降では、外国製ゴミに占める中国製ゴミ数の比率が約30%台から50%台へと20%程度の増加が認められる。

そこで、今まで5回以上調査を試みてきた6島を対象に、島ごとに漂着ゴミの推移傾向をまとめたのが図3.5a)〜(e)である。1km当たりの総ゴミ数をみると(図3.5a))、漂着ゴミの著しい増加傾向が認められるのは与那国島、石垣島、宮古島で、特に2000年春季以降にそのような傾向は明瞭となっている。その総ゴミを構成している中国製、台湾製、韓国製の外国製ゴミ(図3.5b)〜(d))と日本製ゴミ(図3.5e))の傾向をみると、大きな変動はやはり与那国島、石垣島、宮古島での2000年春季以降での中国製ゴミの増大である。また3島では韓国製ゴミの増加傾向も懸念される。日本製ゴミ数の絶対量は各島で総ゴミ数のほぼ510%未満で1km当たり1,000個以下と少ないが、やはり与那国島と石垣島では季節的・経年的に確実に増加傾向にある。

3.4 むすび

 琉球諸島を中心とした南西諸島での漂着ゴミの実態は、黒潮海流が運搬する遠距離漂流型の中国製・台湾製の外国製ゴミとそれらが判別不能化した不明ゴミが主流となっていることが理解される。また琉球諸島での漂着ゴミの数量・構成・タイプの季節的・経年的推移傾向は島間においてかなり異なっているが、漂着ゴミ数は季節的・経年的に確実に増加傾向にあり、その主因は中国製ゴミの増加に起因していると推察される。今後も調査を継続し詳細なデータを入手し、漂着ゴミの防止対策の確立に反映される必要があると考えられる。