第8章 結論

 

これまでの漂着ゴミ実態の分析結果から、漂着ゴミは日本列島の周りの海流と密接に関連し、漂着ゴミの国籍・種類などの構成・タイプには地域的特徴のあることが判明した。漂着ゴミの軽減・防止対策を検討・確立するには、地域牲を考慮して産出・発生源や漂流・漂着ルートを解明することが不可欠である。そのためにも、漂着ゴミの詳細な実態調査を国家的レベルで全国的に展開することが要求される。また漂着ゴミ発生原因の一つである海洋投棄に関しては、ロンドンダンピン条約やマルポール条約などの国際海洋条約がある。特に外国製ゴミについては、日本・中国・韓国・ロシア間で締結した日本海・黄海域の海洋保全に関する「北西太平洋地域海行動計画」を念頭において近隣諸国との積極的な協議や話合いが不可欠である。日本製ゴミについては、廃棄物埋立て中の海岸からの流出、河川から海洋への流出、海岸や船上からのポイ捨て投棄等を考慮した産出発生源の解明が要求される。また、全国の多くの海岸で分別もされないまま行われている漂着ゴミの「浜焼き」処理は、外国製ゴミや日本製ゴミにかかわらず漂着ゴミの主体が生活廃棄物などの廃プラスチック類であることからダイオキシン類を発生させ、環境ホルモンの生態系に及ぼす影響が顕在化する危険性をはらんでいる。さらに注射器・医薬ビン・点滴パック等の医療廃棄物の漂着も目立つ。このような状況は、漂着ゴミの全国的実態調査と防止・処理対策を確立することが国益にもかかわる緊急課題であることを痛感させる。

以下に、今までの調査結果に基づき、漂着ゴミの海岸汚染問題に関する主要な防止・処理対策とその課題についてまとめ本研究の結論とする。

(1)     日本には基本的にプライベートビーチは存在しない。海域や海岸線を管理する行政機関が主体となって、全国レベルで早急に綿密な漂着ゴミの実態調査を実施する必要がある。特に漂着ゴミの地域的特徴や季節的変動量の把握と漂流漂着ルートや産出発生源の解明に主眼を置いた緻密な経年的調査が強く要求される。必要に応じては、衛星や発信機など高度な科学技術を導入したモニタリング追跡調査が望まれる。

(2)     琉球諸島(主に先島諸島:八重山諸島と宮古諸島)、日本海沿岸及び離島、津軽海峡沿岸などの海岸では、外国製ゴミが大量に漂着している海岸が多い。海岸汚染防止のため種々の国際的条約が締結されているが、廃棄物の海洋投棄は世界的に全面禁止の状況でないばかりか、まだ有害汚染物質の海洋投棄も合法的に認められているのが現状である。国際法上、有害物質として規定され、海洋投棄が禁止されている残留性プラスチック廃棄物が、日本に漂着する外国製ゴミの90%近くを占めている。この外国製ゴミの漂着を防止するためには、日本・中国・韓国・ロシアの4ケ国が加盟する国際的協定「北西太平洋地域海行動計画」を念頭に置いて、近隣諸国との対処方法などについての協議や話合いを国の関連機関は積極的に持つことが不可欠である。

(3)     平成11度の海上保安白書によると17)、日本沿岸域の海洋上4265海里(1海里1,852m)で目視によって確認された海上漂流物は3,900個(発泡スチロール類・ビニール類・プラスチック類が約61%を占める)で、9.14/10海里で、調査を始めた平成5年度からほぼ類似の傾向が観測されている。しかし、この実態をはるかに超えるゴミ量が海岸線に漂着している。太平洋側の相模湾・東京湾沿岸域では、日本製ゴミ数は実に総ゴミ数の9割以上を占めている。日本製ゴミの場合には、ゴミ埋立て海域や河川から海洋への流出、海岸・船上等からのポイ捨て投棄を念頭に置いた発生源の解明と、海上不法投棄等を取締まる海上環境関係国内法令の徹底と不備の見直しを早急に計り、防止対策を検討強化することが重要である。

(4)     漂着ゴミの防止・軽滅対策に加え、既に日本列島の海岸域は漂着ゴミの山で覆われている。処理対策の確立は緊急を要する課題である。海岸清掃はボランティア団体や地域住民有志による奉仕活動に頼っているのが現状である。だが海岸清掃も海水浴や観光シーズン前後に限られており、しかも清掃される海岸は、観光主体の海岸や都市近郊の海岸に限られていて、清掃活動が行われている海岸は全国的には非常に少ない。海岸域の投資は埋立て造成や港湾・防波施設建設などの経済・防災上からのみならず、小型海掃船や大型清掃車両導入などに国や自治体がイニシアティブを取り、海岸環境保全の見地から人的・経済的・物資的支援など、処理対策への行政的支援対策の強化が急務である。

(5)     沿岸域を経済・観光資源としている受益組織(交通運輸関係、レジャー観光関係、港湾・漁業関係など)や漂着ゴミとなる製品の製造・販売に関連する企業は、海岸保全の意識高揚を図る役割を担う責務があり、調査、清掃、保全などの啓発活動に必要な基金設立などの経済的支援体制や方策確立を検討することが強く求められる。

(6)     漂着ゴミには、ダイオキシン類などの環境ホルモンを放出・流出する可能性が懸念されるプラスチック類が大半を占めている。それらを分別しないままの漂着ゴミの「浜焼き」処理は、調査海岸の6割以上にその痕跡が見られるデータがある。漂着ゴミの「浜焼き」による焼却灰中に含まれるダイオキシン類の有無の検証、沿岸域の海水・底質土中に含まれる有害化学物質の有無の検証、海洋生物の汚染実態の検証が重要であり、漂着ゴミの「浜焼き」の禁止・規制を周知徹底させることが緊急課題である。

(7)     海岸管理・保全に関係する国機関は、漂着ゴミの実態調査や防止・処理対策に関する具体的事項についてこれまでほとんど提示していない。しかも日本の漂着ゴミによる海岸汚染の実態を考えると、当然日本のゴミもまた、近隣諸国はじめ太平洋上の遠い島々の海岸を汚染していることになり、そのような実態も指摘されている。漂着ゴミ問題は越境移動汚染問題に発展する状況を十分に考慮し、一地域的よりむしろ地球的規模の環境汚染問題として捉えて取り組む必要がある。

以上、日本における漂着ゴミ問題の実態について、多くの調査データに基づき論述した。漂着ゴミの主体はプラスチック製生活廃棄物と漁具類である。プラスチック類の漂着ゴミは分解されず、人間が取り除いてやらねば、いつまでも存在し続ける。劣化して小破片状になれば海岸の砂などに混在する厄介さが生まれる。適切に処理されないプラスチック類は、いずれは海に流れ出して海洋を汚染し、再び海岸に漂着して海岸汚染を招く。人一人ひとり、漂着ゴミ問題の実態を熟慮し、身の回りから排出される生活廃棄物の処理に日頃から注視する必要性を、本研究調査を通して痛感させられた。