第5章 対馬海流沿い日本海側の漂着ゴミ実態

5.1      はじめに

黒潮海流の流路に当たる八重山諸島や宮古諸島の海岸域に、海流に乗って中国、台湾、韓国などの近隣諸国からの外国製ゴミが大量に漂着している実態を提示してきた。またこれら近隣諸国からの外国製ゴミは黒潮海流に乗ってさらに太平洋近海を北上し、遥か遠方の伊豆諸島や硫黄島にも漂着しており、日本の周りを流れている海流と密接な因果関係にある。これに対して関東沿岸域は、漂着しているゴミのほとんどが日本製ゴミと言う実態が鮮明になった。このように漂着ゴミのタイプには海岸域的特徴が認められる。

 本章では、奄美諸島西方沖合で黒潮海流から分岐して日本海を北上する対馬海流に殊に注目し、九州玄海灘から北海道に掛けての日本海上8離島(対馬、壱岐、舳倉島、佐渡島、飛島、奥尻島、利尻島、礼文島)と、この海流沿いに面した山陰沿岸(山口・島根県)、新潟沿岸、北海道日本海沿岸、さらに対馬海流が東北日本海上で分岐し回り込む津軽海峡沿岸(青森県下北半島)及び北海道オホーツク海沿岸での調査結果を提示することによって、日本海側海岸域を中心にその漂着ゴミの実態と海岸域的特徴について詳述する。図5.1には、対象とした13海岸域とその調査概要について示している。13海岸域での調査海岸数は93海岸で、調査海岸距離に換算すると25.7kmに達する。

 調査した漂着ゴミの構成・タイプ等に関する分析データを詳細に説明し考察を加えるに当り、まず対馬海流ルート近傍沿いの代表的な海岸域における漂着ゴミの実態について明示しておく(写真5.1)。やはり日本海側海岸域でも、多くの海岸には大量の漂着ゴミが浜一面に覆い、まさに巨大ゴミ箱と化した海岸が非常に目立つ。大量に押寄せた漂着ゴミには、南西諸島での中国・台湾製ゴミや関東沿岸での日本製ゴミよりもむしろ、韓国製ゴミが非常に目に付いたのが調査での特徴的事項である(写真5.2)。

 

5.2      日本海上離島及び日本海・オホーツク海沿岸域の漂着ゴミ実態

調査を重ねる度ごとに、日本列島に漂着しているゴミと海流との間には密接な因果関係があることを一層強く確信させられる。長崎県対馬と壱岐につづき、北海道礼文島に至る日本海上離島での調査データは、まさに海流との因果関係を究明する調査データとしては最適であった。ここでは、日本海上8離島49海岸の調査データを中心に、山陰沿岸、新潟県沿岸、北海道日本海・オホーツク海沿岸のデータを加味し(図5.1参照)各島及び沿岸域ごとに総計整理し、対馬海流となどの因果関係で海流ルート沿いの漂着ゴミ実態の推移・特徴について詳述する。なお大陸側を北上する対馬海流との因果関係をより鮮明にするために、3.2節で提示した南西諸島のデータを再度併記して論述する。

まず各島々や海岸域での総ゴミ数を1km当たりの個数に換算して比較した結果(図5.2)、これまでの調査で最大の漂着ゴミ量を記録した対馬が21,346/km、次いで壱岐が20,378/kmと圧倒的なゴミ量を示している。しかもこの漂着ゴミは対馬海流ルート沿いの離島・沿岸域では、北方に位置している島・沿岸域ほど概ね徐々に減少していることが分かる。清掃活動の少ない離島海岸域では、手付かずの漂着ゴミの状態に遭遇する機会が多い。このため日本海上離島の調査データは、日本海側海岸域へ漂着するゴミの最大の供給源が対馬・壱岐近海の朝鮮半島周辺の海域にあって、漂流ゴミが対馬海流に乗って運搬され島々に漂着しつつ北上していることを暗示している。このことは、黒潮海流ルート沿いでの併記した琉球諸島のデータとの対比によってより明解に裏付けられている。即ち、奄美諸島西部沖合で黒潮海流から分岐して日本海側を北上しているのが対馬海流である。対馬海流が黒潮海流の分流であることからすれば、当然、南から島々への漂流ゴミの漂着が進み、海流に乗って漂流するゴミ量は徐々に減少していくものと推察される。しかし対馬での漂着ゴミ量の不連続的な激増は、朝鮮半島近傍の海域に新たな大量の漂着ゴミの供給源が存在していることを示唆している。内陸側沿岸域と漂着ゴミ量を比較すると、山陰沿岸域が5,283/km、新潟沿岸域が13,445/km、北海道日本海側沿岸域が4,778/km、オホーツク海沿岸域が1567/kmであったことから、同じ日本海側でも海上離島での漂着ゴミ量が、一般に、かなり多くなっている。

日本海離島・沿岸域での漂着ゴミの構成・タイプは(図5.3a)〜(c))、総ゴミ数の6070%をやはり不明ゴミが占めている。しかし外国製ゴミ数の占める割合もかなり高く、日本製ゴミ数を遥かに上回る島・沿岸域が多い。この実態は南方の黒潮海流沿いの島々でも同様の傾向を示している。ただし大きく異なる点は、外国製ゴミの国籍別割合を比較すると明らかである。日本海上の対馬海流沿いでは、外国製ゴミの主流が一貫して韓国製ゴミで、外国製ゴミ数の6080%台を占めている。これに対して南方の黒潮海流沿いでは、中国・台湾製ゴミが6080%台を占め外国製ゴミの主流となっている。このように両海流沿いでの漂着する外国製ゴミの大きな相違は、上述した対馬近海の朝鮮半島近傍の海域に韓国製ゴミの供給源が在ることを一層確かなものとしている。日本海上離島での韓国製ゴミ数の割合は朝鮮半島近傍の対馬から北海道礼文島と徐々に減少し、その割合は30%台から10%台に低下している。逆に日本製ゴミ数が数%から20%台と増加している。また対馬海流沿いの特徴的なことは、オホーツク海沿岸域でも確認されたように、舳倉島付近からロシア製ゴミが確認され始め、北方に位置する離島ほど増加し、礼文島では外国製ゴミ数の33.7%、オホーツク海沿岸では31.6%を占めていることである。

ちなみに1km当たりに換算した日本製ゴミと外国製ゴミ数との比較及び、その外国製ゴミを構成している近隣諸国からのゴミをそれぞれ区分して、その漂着状況を見たのが図5.4a)〜(e)である。黒潮海流沿いの島々では、日本製ゴミはほとんど500/km以下で、外国製ゴミは与那国島の2,829/km以外はほぼ1,700/km以下で500/km台以下が多い。これに対して対馬海流沿い日本海上離島・沿岸域では、日本製ゴミはほぼ5001,600/km範囲で、外国製ゴミは1,000/km以上、対馬は6,462/km、壱岐は4,299/kmとなっている(図5.4a))。各海岸域への韓国製とロシア製ゴミの数量的推移を見ると(図5.4b)と(c))、日本海上離島・沿岸域での漂着ゴミと対馬海流は密接な因果関係にあることは一目瞭然である。さらに中国製と台湾製ゴミの推移に注目すると(図5.4d)と(e))、両外国製ゴミは朝鮮半島より遥か南方から黒潮海流に乗って島々に漂着し、さらに分流した対馬海流に運ばれて確実に日本最北の礼文島やオホーツク海沿岸まで漂着していることが明らかである。

これら対馬海流沿い離島・沿岸域での漂着ゴミの種類は、やはり遠距離漂流に適したプラスチック類がほとんどで数量的には80%台を占め、黒潮海流沿いの琉球諸島での傾向とほとんど同じである(図5.3c)参照)。まさに日本海上離島・沿岸域の漂着ゴミは対馬海流運搬型の韓国製ゴミと言える。

なお上述したように、対馬海流ルート沿い海岸域で漂着する韓国製ゴミの主流は、身近かなプラスチック類ゴミなどの生活廃棄物と漁具類であるが、加えて大型粗大ゴミの漂着が非常に目立つ海岸域でもある。これらの大型ゴミでは、テレビや冷蔵庫などの大型家電製品類、ドラム缶や一升缶などの大型缶類、大型ガスボンベ類などが確認でき、ハングル文字が表示されたものがほとんどである(写真5.3)。このような大型ゴミの漂着実態を見ると、故意に海岸・海洋へ不法投棄されたものか漂着したものと判断せざるを得ない。また漂着大型ゴミには機雷など危険物として扱わなければならないものであり、処理対策に難しい問題が生じる可能もある。

5.3      津軽海峡沿岸域の漂着ゴミ実態

 

ここでは青森県下北半島沿岸域での調査結果の分析に基づいて(図5.1参照)、津軽海峡沿岸域の漂着ゴミの実態について記述する。青森県下北半島沿岸域の5箇所(調査総距離2.4km)の海岸(図5.5)で確認した総ゴミ数(外国製ゴミ、日本製ゴミ、不明ゴミの総計)9,548個で、1km当りに換算すると4,340個となる(図5.6)。この総ゴミ数の21%が外国製ゴミで(図5.7)、これまでの山陰沿岸域の16%や新潟県沿岸域の8%に比べても高い数値である(図5.3a))参照)。その総数は1,982個に達し、1km当りに換算すると901個となる(写真5.4(a)(b))。これは、外国製ゴミの国籍をみると(図5.8)、いずれの海岸も韓国製ゴミが圧倒的に多く、外国製ゴミの8188%を占めていた(写真5.5)。ロシア製ゴミは12%、中国系ゴミは715%程度で、その内台湾製ゴミに比べて中国製ゴミが大部分を占めているのは、台湾製ゴミが津軽海峡に入り込む前に、南の島々に漂着する度合が高いからである。日本製ゴミは総ゴミ数の24%で、外国製ゴミとほぼ同比率であった(図5.7)。やはり津軽海峡沿岸域でも漂着ゴミの50%以上は不明ゴミであった。さらに、漂着ゴミの種類を尻屋崎海岸(下北-2)の例でみると(図5.9)、プラスチック類がいずれも7387%を占め、プラスチック類が漂着ゴミの大半を占めると言う、黒潮・対馬海流ルート沿いに面する多くの海岸域に共通な特徴がここでも認められる。また大型ブイ等の漁具類の漂着も目立ち、1km当りに換算して287個に達した。これは漁具類の漂着がこれまでの調査で特に多い先島諸島での結果にも匹敵していた(漁具類の全国的漂着実態について第6章で詳述する)。ちなみに19991月実施した宮城県名取市の太平洋沿岸に面する北釜海岸一帯での調査データでは、調査海岸距離0.3km範囲で確認した漂着ゴミ数は1,578個で1km当りに換算すると5,260個であった。種類としては64%がプラスチック類、21%が缶類、15%がビン類であった。国籍別比率では日本製ゴミが94%、外国製ゴミが1.2%で1km当りに換算すると60個であった。この外国製ゴミの67%が韓国製ゴミ、11%が中国製ゴミであった。数量的には少ないが、これらの韓国製ゴミを主流とした太平洋側東北沿岸域に漂着している外国製ゴミは対馬海流に乗った漂流ゴミが日本海側から津軽海峡を回り込み太平洋側に抜けて、南下する親潮海流に運搬されて漂着した可能性が非常に高い。

以上、津軽海峡は、日本海側の外国製ゴミを含んだ漂流ゴミの一部が東北〜北関東地方の太平洋沿岸域にまで達する通路ともなっていると言える。そのため津軽海峡沿岸域は外国製ゴミを主流とした漂着ゴミによる海岸汚染問題が深刻な状況にある海岸域の一つでもある。

 

5.4 危険な薬品名表示ポリタンクの大量漂着

20003月、九州〜東北地方の日本海沿岸域に掛けて薬品用ポリタンクが漂着して、それがあまりにも広範域で大量であったために社会的問題となった。後の海上保安庁海上環境課の調査で、日本海側の海域に総計約38千個漂着したと報告された6壱岐・対馬の調査データでは、この薬品用ポリタンクの漂着を大量に確認している(写真5.65.7)。このポリタンクは韓国製と中国製のものを確認しているが、その9割以上が韓国製であった。ポリタンクの表示には硝酸(HNO)、過酸化水素(H2O2)、アンモニア水(NH4OH)、リン酸(HPO)などの薬品名が明示されている。壱岐・対馬の海岸で確認した薬品用ポリタンク数を表5.1に、海岸地点を図5.10にまとめている。壱岐8海岸で126個、対馬10海岸で569個、総計695個を確認している。特に壱岐では清石浜一帯の海岸、対馬では小茂田浜、青海の海岸、田ノ浜などの朝鮮半島に面した西側の海岸域で大量に漂着していた。浜によっては幾度も清掃で集められ、田ノ浜のように集められたポリタンクが山のように積み重ねられた海岸もあった(写真5.6参照)。この壱岐・対馬での薬品用ポリタンク大量漂着の実態から判断すると、これらポリタンクは朝鮮半島付近の海域を漂流し、対馬海流に乗って北上しながら、日本海沿岸の広範な海岸域に漂着したものと推察される。これほど大量のポリタンク漂着は、大型家電製品や大型缶類同様、故意による不法投棄と考えざるを得ない。

 

5.5 むすび

対馬・壱岐の調査データに加え、舳倉島、佐渡島、飛島と北上し、奥尻島、利尻島、礼文島に至る日本海近海の8離島の調査データを入手するのに一年を費やしている。

 日本海を北上する対馬海流は北海道海域手前で分岐し、分岐した支流は津軽海峡に回り込み太平洋に流れ出る。その際、対馬海流に乗って北上する漂流ゴミで津軽海峡に回り込んだものは、青森県下北半島の海峡沿岸域に大量漂着ゴミとなって押寄せている実態が分かった。対馬海流に乗ってさらに北海道海域へと北に向かう漂流ゴミは、奥尻島、利尻島、礼文島などの近海離島や北海道沿岸域への漂着ゴミの主因となっている。まさにこのような実態は、日本海側海岸域の漂着ゴミは北上する対馬海流によって運搬される遠距離漂流型ゴミが主流であることを実証していると言える。

 即ち、日本海上離島及び日本海沿岸域に韓国製ゴミを主流とした外国製ゴミの大量漂着をもたらしつつ、さらに離島・沿岸域から流出した日本製ゴミをも取り込みながら延々と北上していることを、一連の分析データは明解に説明していると言える。

 日本最北端は宗谷岬である。対馬海流は宗谷海峡をさらに北上してロシア連邦サハリン州海域へ、分岐した支流はオホーツク海域へと向かう。対馬海流に運ばれる漂流ゴミの行き着く先は何処なのか?漂流ゴミの墓場は何処なのか?何れ突き止める必要があるものと考える。