興味あること(研究テーマ)
(1)ZSM-5ゼオライト上での化学反応動力学の単結晶X線法による解析
ZSM-5ゼオライトはゼオライト触媒の中でも最も活性が高い触媒の1つです。しかし、その中での反応機構については分光学的方法や反応生成物分析からの推測にすぎず、分子や原子がどこでどのように分解し再結合するか良く分かっていません。ここでの目的は単結晶X線解析法を用いてZSM-5上での触媒反応の動力学(反応過程の原子のすべての座標)を明らかにすることを最終的な目的にしています。現在。コバロキシム錯体等の相転位における転位前と転位後の構造を明らかにしている例はありますが、多くの反応では固相反応ではなく、液体や気相反応です。本研究の目的は、本来結晶ではない反応をゼオライトの結晶上で反応させることにより、反応の情報をゼオライトの結晶の情報に載せて捕らえようとするものです。ちょうどたくさんのたい焼きをたくさんの鋳型から同時に焼く時。たい焼きの鋳型は結晶と考えて良いでしょうが、この時はたい焼きも結晶の一部と考えられます。たい焼き一つをとり出せばそれは柔らかくてとても結晶とは言えませんが、鋳型に入ったたい焼きはどんなに柔らかくてもそれは結晶の一部となります。気相反応は本来結晶ではありませんが、それがゼオライトの中でおこれば結晶の一部と考えられるのです。当面は次の2種類の反応について検討しています。
a) トルエンの不均化反応
b)トルエンのアルコール類によるアルキル化反応
(2)ゼオライトの構造と合成
a)吸着物質-ZSM-5の構造
b) シップインボトル-ZSM-5の構造
c)アナルサイムの構造
d)フェリエライトの構造と合成
e) ゼオライトの結晶化過程
(3)新しい有機化合物や無機化合物の構造決定
単結晶X線結晶構造解析はずいぶん容易になりましたが、巷で言われる程うまく解けない場合もあります。多くの単結晶解析をやっていない人や、よく知らない先生方が簡単に単結晶X線解析ができるように言う場合が多いですが、実際はうまくいかないことも多くあります。これは前述の通り、原理的に必要な情報の半分しか手に入らないことに起因します。この問題は現在でも解決できたわけではありません。解析を成功に導くには多くの経験を積むことが大切ですが、解けなければ経験を積むことができません。私は自分自身で70以上の未知化合物構造を決定しており、ずいぶん経験は多い方だと思いますが、それでもなかなかうまくいかない時もあります。いろいろな先生に頼まれて結晶解析を請け負うことも多いですが、これはある意味で、自分の練習問題になります。時々予想外の難問にぶつかり何年もかかり困り果てていると、うまいアイディアが浮かび解決することがあります。その経験は貴重で、また大変嬉しくもあります。うまくいかない例はいくつかに分類できますが、ケースバイケースのことが多く、コンピュータの解法の中に組み入れることが不可能です。これが単結晶X線解析が最も早くコンピュータを取り入れながら、NMRと違って完全にルーチン化できない理由なのかも知れません。途中途中で、化学的な総合的な知識や結晶学の知識や深い自然科学一般に対する洞察力等を必要とします。途中の判断を誤れば、永久に正解には到達できません。それだけに楽しみでもあるわけです。以下に難問だった例の一部をあげます。