近年の気象学の研究は、主に社会の要請から、温暖化などの地球環境に関わる研究や、降雨予測などの防災に関わる研究に集中する傾向にあるようです。しかし、温暖化の原因となる温室効果ガスは地表面付近に排出源を持ち、大気境界層の交換過程を通して自由大気、地球全体に輸送されます。また、降雨のもととなる水蒸気は大気境界層を介して水平・鉛直方向に輸送され、凝結・併合を繰り返し雲・降水に変化していきます。このように、境界層内の素過程は気象学のさまざまな分野の理解に不可欠です。その境界層自身の研究はというと、水平一様な地表面上の研究はほぼ確立されたものの、非一様な複雑地形、3次元構造をした都市などの境界層の研究はまだまだ多くの未解決の問題を抱えています。この解決なくして、地球規模の物質輸送、複雑地形やヒートアイランドの豪雨への関与も解明できません。
境界層は、人間活動の場であるために、工学、農学、社会科学などとも関連する学際的色彩の強い対象です。5名の先生方に、これまでの境界層研究を振り返り、最新の話題を提供していただくこの機会に、多方面でご活躍の研究者の方々とともに今後の境界層研究の役割と課題を議論したいと思います。
趣旨説明 中西幹郎(防衛大学校)
講演(各講演は質疑・討論を含め35分)
「これまでの境界層研究−私の研究を中心にして、そして温暖化問題−」
近藤純正(東北大学名誉教授) 要旨
「都市境界層−都市気候の予測と解析に向けたモデリング−」
日下博幸(筑波大学生命環境科学研究科) 要旨
「建物周りの境界層−気象モデルと流体力学モデルの結合−」
山田哲司(米国YSA社) 要旨
「大気境界層−雲・降水過程における重要性−」
木村富士男(筑波大学生命環境科学研究科) 要旨
「これからの境界層研究−社会的要請に基づく研究の総合化(本格研究)−」
近藤裕昭(産業技術総合研究所) 要旨
総合討論