ベナン共和国への自衛官講師派遣

【ブリーフィング・メモ】 

国防論教育室 准教授 浦上法久2等陸佐               

令和6年2月

日本の対アフリカへの防衛協力
-ベナン共和国への自衛官講師派遣-

防衛大学校

浦上法久

ガーナ共和国のコフィ・アナン平和維持活動訓練センター(The Kofi Annan International Peacekeeping Training Centre : KAIPTC)は、2024年2月5日(月)~2月9日(金)の間、ベナン共和国のコトヌーにおいて「Preventing Violent Extremism, Radicalisation and Small Arms Proliferation in the Sahel and adjoining Coastal Countries in West Africa(西アフリカのサヘルと隣接する沿岸諸国における暴力的過激主義、過激化、小型武器(Small Arms and Light Weapons: SALW)拡散の防止)」をテーマとする能力強化コースを開催した。

 

教育コース開講式の様子

 浦上法久防衛学教育学群准教授・2等陸佐は、本能力強化コースに講師として派遣され(派遣期間は、令和6年2月2日(金)~2月11日)、「Terrorism: Why People and Societies Radicalise?(テロリズム-人及び社会はなぜ過激化するのか?)」をテーマに講義を行った。

 

 

講義景況

コフィ・アナン平和維持活動訓練センターは、現在の西アフリカ地域における安全保障上の課題-暴力的過激主義、コミュニティの過激化、小型武器の拡散-に対して2022年11月、西アフリカ7カ国(ベナン、トーゴ、ガーナ、コートジボワール、ニジェール、マリ、ブルキナファソ)によって、テロ、暴力的過激主義、小型武器の拡散、密売の防止と対策に向けた多国間政策合意である「アクラ・イニシアティブ(Accra Initiative)」の履行に向け、能力強化プロジェクトを実施している。サヘル地域は現時点でテロの頻発地域のひとつであり、テロによる世界の死者数の43%を占めている。テロを引き起こす暴力的過激主義はマリからブルキナファソへと拡大し、この2カ国だけでサヘル地域で生起しているテロ事件の過半数(58%)を占める。
暴力的過激主義は、さらにコートジボワール、ベナン、トーゴといった沿岸諸国にも徐々に拡散している兆候が見られるようになった。暴力的過激主義グループは、マリ、ニジェール、ブルキナファソで軍の施設から小型武器を盗み出し、あるいは略奪するなどし、2017年以降では、即席爆発装置(IED)の使用が、サヘル及び西アフリカ地域へと拡がっているが、これは暴力的過激主義が南下・東進していることを示すものである。マリ北部で多用されたIEDがブルキナファソやニジェール、最近ではコートジボワールでも使用されるようになっている。懸念すべきは、こうしたIEDが中央アフリカのような地理的に隣接しない国でも使用されるケースが見られるようになっている点にある。このような暴力的過激主義の拡散と浸透は、コミュニティを過激化させ、社会的結束を分断させることになる。アクラ・イニシアティブに参加している西アフリカ諸国が、暴力的過激主義の拡散を食い止め、テロ事件の減少に務めようと努めているが、これはテロをはじめとする暴力的過激主義が、国家安全保障にとって脅威となっているためである。

コフィ・アナン平和維持活動訓練センターによる本プロジェクトは、日本政府が国連開発計画(UNDP)を通じて進めている事業である。在ベナン日本大使館の一條基信臨時代理大使は開講式でのスピーチにおいて、日本はアフリカの平和と安定に貢献するため、2008年以降、UNDPを通じてコフィ・アナン平和維持活動訓練センターに対し、累計約946万ドルを支援してきたとし、2023年5月に岸田文雄首相がガーナを訪問した際に、サヘル地域とギニア湾沿岸諸国の平和と安定への寄与と、持続可能な成長を促進することを目的に、今後3年間で約5億ドルの支援を拠出することを表明したことを強調した。西アフリカ地域が抱える安全保障上の課題-テロや暴力的過激主義の拡散と浸透、小型武器の蔓延、IEDによる一般市民を巻き込んだ無差別な被害の拡大-など、西アフリカ地域におけるテロ対策の強化に日本の財政支援は大きな役割を果たしている。

教育コース参加者への履修証書の授与

同時に、日本による西アフリカ諸国への安全保障面での関与という側面では、ベニンへの自衛官教官の派遣は今回が初めてであり、眼に見える人的プレゼンスを以って防衛協力を示した点で意義が大きい。
日本が2019年にアフリカ開発会議(TICAD 7)において提唱した「アフリカにおける平和と安定への新たなアプローチ(New Approach for Peace and Stability in Africa: NAPSA)」を具体的な形のある政策として進めるうえで、民主主義の定着や法の支配の促進、司法・行政分野の制度構築、ガバナンス強化、海上法執行機能の強化、紛争予防・平和構築、特にアフリカPKOセンターへのPKO要員の能力強化といった分野での人的プレゼンスは継続的に進めていく必要があると思われる。防衛省・自衛隊としては、既に、国連三角パートナーシップを通じた能力構築支援を継続的に進めているが、国連の枠外での二国間及び多国間の防衛協力の推進は、NAPSAを具現化していく手段となり得るものといえよう。

教育コースの景況

 

2024年02月05日