日本とジャマイカの防衛協力の序開
国防論教育室 准教授・2等陸佐 浦上 法久
ジャマイカはカリブ海に位置する島国であり、その地理的な特徴から中米カリブ地域
の安全保障に重要な役割を果たしている。カリブ地域は、国際的な海上交通の要衝であ
り、麻薬取引や密輸といった犯罪活動の温床となりやすいため、地域全体の治安状況が
不安定になるリスクが存在している。国内に目を向けると、ジャマイカは観光業を中心
とした経済成長を遂げている一方で、都市部では犯罪率が高く、治安維持に課題を抱え
ている。こうした国内の治安問題とカリブ地域の安全保障環境の安定化に対応するため、
ジャマイカは軍の能力向上を目指しており、国際的な協力を通じて地域の安定化に寄与
する姿勢を示している。また、中米・カリブ地域全体においては、国際的な平和維持活
動(PKO)や日本との防衛協力・交流にはまだ発展の余地があり、多国間協力を通じた
安全保障協力への取り組みが求められる。このような背景のなかで、日本とジャマイカ
の防衛協力が開始されたことは、地域の安定と安全保障に対する新たな貢献を象徴して
いる。
防衛大学校グローバル・セキュリティ・センター兼防衛学教育学群准教授、浦上法久
2等陸佐(博士)は、防衛省・自衛隊として初めて、ジャマイカ軍との防衛協力を目的
とし公式に講師として派遣された。この派遣は令和6(2024)年7月29日から8月2
日まで行われ、日本とジャマイカの防衛協力の新たなステップを踏み出す重要な機会と
なった。滞在中、浦上准教授はジャマイカのカリビアン・ミリタリー・アカデミー
(Caribbean Military Academy: CMA)において、平和活動(Peace Operation)に関
するワークショップを開催した。メイン講師として、2日間にわたり講義を行い、国際
平和協力活動に関する知識と経験を共有した。このワークショップは、ジャマイカを含
むカリブ地域における国際的な平和維持への取り組みを強化するための重要な一歩で
あった。
今回の派遣の意義は、第一に、日本とジャマイカ間の防衛協力を初めて正式に立ち上
げる機会となったことである。特に、平和維持活動に関する教育が中心となることで、
国際的な安全保障への取り組みに重点が置かれている。ジャマイカは国連PKOへの派
遣経験が少ないため、この協力が同国の国際的な平和活動への参画を深める契機となる
ことが期待される。
第二に、カリビアン・ミリタリー・アカデミーにおける国連PKOに関する教育カリ
キュラム作成の支援である。同アカデミーは中南米諸国やアフリカなど35カ国から軍・
警察・政策実務者などを留学生として受け入れており、国際的な教育機関としての役割
を果たしており、中米・カリブ地域における教育・研究拠点(Center of Excellence)
である。
さらに、CMAのメイン・ドナーはカナダであり、アメリカ南方軍やイギリス軍もCMA
に講師を派遣していることから、同アカデミーは国際的な防衛協力の場として機能して
いる。このような国際的な支援の環境の中で、日本の防衛省・自衛隊がCMAとの協力
を進めることには、アメリカ、カナダ、イギリスともさらなる防衛協力を発展させる可
能性を持つものであり、多国間の安全保障関係の強化につながると考えられる。
特にカリキュラムの中では、「Women, Peace, and Security(WPS)」への関心が高
く、ジェンダー視点を取り入れた平和維持活動の教育カリキュラムの策定を進めようと
している。WPSは国際平和活動など地域における包括的な安全保障強化に向けた重要
な要素に位置づけられる。
さらに、カリビアン・ミリタリー・アカデミーとの協力は、浦上准教授が所属する防
衛大学校のグローバル・セキュリティ・センターとの共同研究プログラムの一環として
も意義を持つ。今後、両国間でのさらなる研究交流や防衛分野における知識の共有が期
待されており、特にインド太平洋地域の安全保障に対する多国間での安全保障協力を推
進することに寄与する可能性がある。
今回の防衛協力の取り組みは、日本とジャマイカが共有する自由、民主主義、法の支
配といった安全保障への共通の価値を強化し、今後の多国間防衛協力の礎を築くものと
して、両国にとって大きな意義を持つものである。

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