研究資料
2025年(令和7年)7月
研究資料のタイトル 「心理的レジリエンスを向上させるために」ー書籍『陸上自衛隊員の心理的レジリエンス』からの提言ー
掲載誌 『防衛衛生』第72号
筆者 統率・戦史教育室 准教授 寺田孝史3等陸佐

陸上自衛隊員は、日常的に厳しい職務環境に置かれ、強いストレスにさらされています。著者は心理幹部としての経験から、ストレスによる心身の不調と回復の過程を目の当たりにし、「人はなぜ回復できるのか」という問いを出発点に、心理的レジリエンス(困難から立ち直る力)の研究を進めました。米陸軍の尺度を基に日本語版を開発し、3,300名以上の隊員を対象に調査を実施。その結果、「自己調整」と「つながり」が特に重要な要因であることが明らかになりました。
本研究を踏まえた提言は、現場での実効性を重視しています。まず、既存の教育や訓練の枠組みを活用し、朝礼や通常訓練の中に短時間の呼吸法や集中力トレーニングを組み込むことで、隊員の負担を増やすことなく心理的レジリエンスを高めることが可能です。また、「メンタルヘルス」や「レジリエンス」といった言葉に馴染みのない隊員にも受け入れられるよう、「任務遂行能力の向上」や「精神修養」といった文脈で位置づける工夫が求められます。さらに、隊員間の「つながり」を強化するためには、リーダーシップの質の向上が不可欠です。リーダー候補者への適性検査や教育の充実、不適切な指導の予防策を講じることで、組織全体の心理的レジリエンスを底上げすることが期待されます。これらの提言は、自衛隊のみならず、警察や消防など他の高ストレス職業にも応用可能な実践的知見です。
備考
本件は、原稿投稿時に部外意見発表手続きを実施済み。