赤外線カメラを利用した対流熱伝達の非定常測定


1.測定原理

 通電加熱された金属箔を流体の中に置くと、固体壁(金属箔)-流体間の熱伝達によって、金属箔に温度分布・変動が現れます。これを高速度赤外線カメラで測定することにより、乱流に起因した高速で複雑な熱伝達の変動挙動を調べることができます。

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2.周波数応答と空間分解能

 伝熱面(通電加熱された金属箔)の熱容量が十分に小さければ高速な熱伝達変動を捉えることができますが、実際には変動周波数が上昇すると温度変動振幅が減衰し、ある周波数以上では赤外線カメラのノイズに埋もれて温度変動を検知できなくなります。同様に、伝熱面の面方向の熱伝導(熱拡散)が十分に小さければ空間的に細かな熱伝達構造を捉えることができますが、実際には空間波数が上昇(波長が減少)すると温度分布の振幅が減衰し、ある波数以上では赤外線カメラのノイズに埋もれて温度分布を検知できなくなります。ここでは、赤外線カメラで検知可能な変動周波数および空間波数の一般関係式を解析的に導出しました。

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【 主な文献 】
  1. 導電性薄膜を伝熱面とした対流熱伝達測定の周波数応答および空間分解能, 機論B, 73-726 (2007), 601-609
  2. Frequency Response and Spatial Resolution of a Thin Foil for Heat Transfer Measurements Using Infrared Thermography, Int. J. Heat and Mass Transfer, 52 (2009), 5040-5045

3.乱流境界層の測定(定量測定の検証)

 本測定手法が空気への乱流熱伝達測定に有効であることを確かめるため,平板乱流境界層に伴う熱伝達の時空間分布測定を試みました。熱伝達の時空間構造は伝熱面の熱容量・熱伝導によって減衰しますが、熱伝達率の変動を定量的に求めるために、逆解析(伝熱面内部の非定常熱伝導解析)を行って減衰を復元しました。その結果、乱流渦構造(ストリーク構造)の挙動に支配された熱伝達の時空間構造をはっきりと捉えることができ、本手法が、空気への乱流熱伝達現象を把握する上で有効な手段となることが示されました。

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【 主な文献 】
  1. 導電性薄膜を伝熱面とした対流熱伝達の時空間分布測定, 機論B, 73-733 (2007), 1906-1914
  2. Measurements of Time-Space Distribution of Convective Heat Transfer to Air Using a Thin Conductive-Film, 5th Int. Symp. on Turbulence and Shear Flow Phenomena (2007) München, Germany, pp.773-778
  3. Quantitative Evaluation of Spatio-Temporal Heat Transfer to a Turbulent Air Flow Using a Heated Thin-Foil, Int. J. Heat and Mass Transfer, 64 (2013), 892-902

4.剥離・再付着流れの測定

 後向きステップ流れなど剥離・再付着を伴う流れ場において、熱伝達の時空間変動を測定しました。熱伝達の時間平均的な特性はこれまでにも数多く測定されてきましたが、今回の測定で、例えば以下のことが新たに明らかになりました。(1) 流れが再付着する位置では熱伝達に斑状の構造が現れ、時空間的に激しくかつ複雑に変動する。(2) その構造には、スパン方向(流れと垂直方向)にステップ高さ程度の周期性が存在する。

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【 主な文献 】
  1. 後向きステップ下流における乱流熱伝達の時間・空間変動特性, 機論B, 76-771 (2010), 1870-1878
  2. Spatio-Temporal Characteristics of Heat Transfer in Separated and Reattaching Flows, Proc. ASME-JSME-KSME Joint Fluids Engineering Conf. (2011) Hamamatsu, Shizuoka, AJK2011-25020

5.円管内水流の測定

 最も基本的な流れ場の1つである円管内の流れに着目し、円管内に水を流した時の熱伝達の時空間変動を測定しました。まず、(1) 熱伝達率の変動を定量測定できる伝熱模型の考案および測定の実証を行った上で、(2) オリフィス下流側に形成される剥離・再付着流れの熱伝達の時間・空間変動特性を調査しました。その結果、流れが再付着する位置よりも上流側で熱伝達率が極大になるメカニズムを明らかにしました。
 その後、(3) 流れの急加速・急減速に伴う熱伝達変動を測定し、加速、減速それぞれの場合において特有な熱伝達変動が現れることや、熱伝達の変化を無次元式で一般化可能であることを示しました。その上で、脈動の条件と伝熱促進に関係について系統的に調査しました。また、(4) 円管内にねじりテープを挿入して流れに旋回を与えた測定を行い、流れが旋回すると層流域でも乱れが促進されやすくなることや、圧力損失に比べて熱伝達が大きく上昇することを示しました。現在、このメカニズムについて調査しています。

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【 主な文献 】
  1. 椎原尚輝, 赤外線カメラを用いた円管内乱流熱伝達変動の新測定手法開発と複雑な流れ場への応用,大学改革支援・学位授与機構,82646 第558号 (2017)
  2. Quantitative measurement of spatio-temporal heat transfer to a turbulent water pipe flow, Int. J. Heat and Fluid Flow, 63 (2017), 46-55
  3. 円管内オリフィス下流における流れの再付着位置と熱伝達極大位置の関係, 日本機械学会論文集, 82-840 (2016), DOI: 10.1299/transjsme.16-00067
  4. Unsteady characteristics of turbulent heat transfer in a circular pipe upon sudden acceleration and deceleration of flow, Int. J. Heat and Mass Transfer, 113 (2017), 490-501
  5. Delay in response of turbulent heat transfer against acceleration or deceleration of flow in a pipe, Int. J. Heat and Fluid Flow, 85 (2020), 108661
  6. Consideration of Factors That Cause Heat Transfer Enhancement by Swirling the In-Pipe Flow in the Transition Regime, Proc. 17th Int. Heat Transfer Conf. (2023), ID: 333