赤外線カメラを利用した沸騰熱伝達の高時空間分解測定


1.測定原理

 沸騰熱伝達を赤外線カメラで測定する際には、一般に、赤外線透過窓材(サファイア、シリコンなど)に導電性薄膜(金属やITOなど)を成膜した伝熱面が用いられます。本研究では、赤外線透過窓材として赤外線の透過率が極めて高く可視光も透過するフッ化カルシウムを用いました。また、導電性薄膜として、可視光を透過し赤外線を透過しないITOを用いました。この伝熱面を用いることで、気液界面の挙動を伝熱面越しに高速度カメラで撮影できると同時に、伝熱面の温度変動を高速度赤外線カメラで測定することが可能になります。

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2.周波数応答と空間分解能

 伝熱面の温度変動は熱容量や熱拡散によって減衰するため、赤外線カメラのように温度変動から熱伝達変動を求める手法では、温度変動が大きく減衰すると、計測ノイズに埋もれて熱伝達変動を測定できなくなります。ここでは、薄膜と窓材からなる伝熱面について、測定可能な時間・空間分解能の限界を、熱流束変動振幅、薄膜と窓材の熱物性値、薄膜の厚さ、および測定温度分解能の関数として定式化しました。

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【 主な文献 】
  1. Spatiotemporal resolutions in the measurement of heat transfer fluctuations on a thin film formed on a window material via an optical method, Int. J. Heat and Mass Transfer, 189 (2022), 122723

3.落下液滴沸騰の測定

 気液界面の挙動と壁面の熱伝達変動を伝熱面越しに同時に測定可能であるか検証するために、高温に加熱した可視透明ヒータ(ITOを成膜したフッ化カルシウム窓材)の上にエタノールの液滴を滴下させ、液滴の沸騰挙動を窓材越しに高速度カメラで撮影すると同時に、伝熱面の温度変動を窓材越しに高速度赤外線カメラで測定しました。その結果、沸騰気泡が生成して崩壊するまでの一連の過程に対応した微細かつ高速な熱伝達変動の測定が可能であることを示しました。

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【 主な文献 】
  1. 赤外線による可視透明ヒータ越しの沸騰熱伝達変動測定の試み, 日本冷凍空調学会論文集, 38-2 (2021), 145-153
  2. High spatio-temporal resolution measurement of boiling heat transfer of a falling droplet, Applied Thermal Engineering, 228 (2023), 120464

4.矩形微細流路内の流動沸騰の測定

 辺長 2 mm の正方形断面ミニチャネル内での流動沸騰熱伝達を、高速度赤外線カメラを用いて高時空間解像度(4000 fps、0.025 mm/pixel)で測定しました。同時に、2台の高速度カメラを用いて、チャネル上下から気液界面の挙動を撮影しました。さらに、瞬間熱伝達率分布を画像解析することにより、流動沸騰の素過程(液相対流、ミクロ液膜蒸発、ドライアウト、三相界線、リウェット)が伝熱に及ぼす寄与について調査しました。その結果、本実験条件では液相対流の寄与が支配的であり、総伝熱量の85~95%を占めること、低蒸気クオリティの条件であっても部分的にドライパッチが形成され得ること、ドライパッチが部分できれあれば周囲に形成される三相界線の寄与により熱伝達率の低下が抑えられることなどを明らかにしました。

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【 主な文献 】
  1. 矩形微細流路内の流動沸騰様相と熱伝達変動の高時空間分解測定, 日本冷凍空調学会論文集, 41-2 (2024), 159-170
  2. High spatiotemporal resolution measurement of water flow boiling heat transfer in a horizontal square minichannel using infrared thermography, Int. J. Heat and Mass Transfer, 238 (2025), 126457