フォトニック結晶
|
フォトニック結晶とは屈折率の異なる物質を光の波長程度の周期で規則的に配列させた構造体です。フォトニック結晶には、フォトニックバンドギャップと呼ばれる光の禁止帯が存在します。これらは、1987 年にE. Yablonovitch とS. John により提唱された概念であり、様々な応用が期待されています。例えば、フォトニックバンドギャップを利用することによって、光の閉じ込めや急峻な曲げなどが可能となります。また、フォトニック結晶は、数マイクロメートルの大きさでプリズムやフィルタなどの光学素子が形成できるため、光デバイスの小型化、集積化が可能となることから、微小光回路などへの応用も期待されています。我々は、実際のデバイスを作製して実験すると共に平面波展開法やFDTD法などを利用した数値計算なども行っています。 ![]() 平面波展開法により計算した液晶を注入したオパールのフォトニックバンド図 液晶-フォトニック結晶 光の偏光角や透過帯域などの特性を自由に制御することができるフォトニック結晶は、次世代のオプティカルデバイスとして期待されています。一方、外部信号によって特性を自由に変化させることができるチューナブルフォトニック結晶は応用上で極めて重要となります。電気的、化学的、機械的な変調方式がありますが、我々はフォトニック結晶中に光学異方性を有する液晶を導入したチューナブルフォトニック結晶を研究しています。 これまでに、1次元フォトニック結晶の液晶欠陥層を導入して、フォトニック結晶の欠陥モードを電気的にコントロールすることを提案してきました。下の図のように欠陥層中の液晶分子の向きを変えることで欠陥モードの波長が制御できます。右の図は欠陥モードからのレーザー発振のスペクトルを示しており、電圧印加に伴い波長がシフトしていることができます。わずか2Vの電圧で20nm以上の波長シフトを得ています。この他にも欠陥モードスイッチングや偏光制御などの応用が可能なことを報告しています。 ![]() ![]() ![]() R. Ozaki et al, Appl. Phys. Lett., 82 (2003) 3593. R. Ozaki et al, J. Appl. Phys., 101 (2007) 033503. R. Ozaki et al, Jpn. J. Appl. Phys., 43 (2004) L1477. ナノインプリント法は高解像度かつ低コストな微細加工技術として高い注目を集めています。特に、液晶の研究分野では、ナノインプリント法により作製したグレーティングを用いた配向制御への応用が期待されています。我々は、線幅100 nmという微小な周期構造をナノインプリント法によって作製し、その微小溝に液晶を導入することで、液晶-高分子一次元チューナブルフォトニック結晶を作製し、フォトニックバンド端レーザーの発振波長の電圧制御などを報告しました。今後、ナノインプリントを駆使して、2次元、3次元フォトニック結晶の作製法及び、その微小空間での液晶の配向特性などを研究する予定です。 ![]() ![]() R. Ozaki et al, Appl. Phys. Express, Vol. 1, 2008, 012003. カイラル分子を含むコレステリック液晶や強誘電性液晶は自己組織的に螺旋周期構造となることが知られており、その螺旋ピッチが光の波長程度の場合には選択反射を示します。選択反射とは、液晶の螺旋の巻き方向と同じ円偏光の光だけが選択的ブラッグ反射されるものです。そのため、螺旋周期構造は擬一次元フォトニック結晶とみなすことができます。これらは、自己組織的に周期構造を形成するため特別な装置や微細加工技術を必要としないので作製が非常に簡便です。また、カイラル分子の濃度などを調節することで螺旋を巻く力を制御することができるため、螺旋ピッチの制御も容易です。さらに、温度や電界などの外場にも良い応答を示すといった利点もあるためチューナブルフォトニック結晶としても非常に注目されています。我々は、このようにポテンシャルが非常に高い液晶フォトニック結晶の効率の改善および、新たな応用などを提案すべく研究を行っています。 ![]() ![]() コレステリック液晶(左図)とコレステリック液晶からのレーザー発振の様子(右図) M. Ozaki et al, Jpn. J. Appl. Phys., 42 (2003) L472. フォトニック結晶の負の屈折率 自然界の材料の屈折率は全て正の値を持ちますが、メタマテリアルと呼ばれる金属微細構造やフォトニック結晶などでは、負の屈折率を持ちうることが報告されています。負の屈折率はこれまでの光学の常識を覆すものであり、スーパーレンズという回折限界を打ち破るレンズも実現可能ということで世界中から注目を集めています。我々は、導体損のない誘電体周期構造であるフォトニック結晶の負の屈折効果の研究を行っています。下の動画は、電磁界計算によりシミュレートしたフォトニック結晶の負の屈折の一例です。現在、負の屈折を利用した新たな応用を探っています。 ![]() |