卒業生からのメッセージ

テレビ記者、防衛大に行くー総合安全保障研究科での2年間を終えて

テレビ朝日政治部記者 布施 哲 第10期卒業(国際安全保障コース)

「ほお、どうしてまた防大に?」

総合安全保障研究科(以下、安保研)に入校して以来、学内外で何度も言われた言葉だ。素朴な好奇心のほかに「変わり者だな」という意味も込められているのだろう。自衛官からは「へえ〜」と好奇心丸出しの反応がある一方で、放送局記者への警戒心を露にする人もいた。

それもそのはず、いわゆる制服組と呼ばれる幹部自衛官が大半を占めるこの学校に迷い込んだ(?)唯一の民間人だったからである。「これからのメディアはきちっと勉強しなければ」と意気込んで自ら希望して入校したものの、自衛隊員に囲まれながら自分はこの学校の中では明らかに「異分子」であった。

だが安保研はそんな「異分子」をも呑み込んでしまうくらい懐が広く、かつアカデミックな場所であった。最大の特色は学生の多様なバックグランドである。同期生には幹部自衛官をはじめ内局の事務官、海上保安庁、公安調査庁のほか、韓国陸海軍、モンゴル陸軍からも来ていた。特に韓国軍からの留学生とはよく夜を徹して議論をした。東アジアの安全保障について外国の将校と語り合う。こんな「非日常」が「日常」的にあるのが安保研の魅力の一つだといえる。国内外の安全保障の実務家たちと日常的に切磋琢磨できる環境は民間からの「異分子」にとってはまさに「知のワンダーランド」といえるものだった。

そんなワンダーランドには実に様々な人たちが訪れ、学生はそうした人たちの貴重な話を聞く機会に恵まれる。私が在学していた2年間だけでも米国の元国防長官、イスラエル国防省幹部、米国の外交官、国内外の著名な学者の講演や他大学の大学院生との交流の機会があった。親交を深めた米国外交官や他大学の院生とはその後、一緒に勉強会を続けた。

アカデミック面で特筆すべきは充実した論文指導体制だ。大学院での究極的かつ最大の目的は学術論文を仕上げることだ。学生はプロジェクト科目という論文指導で教官10人(!)を前に進捗状況を発表し、コメント、批判を受けて論文のブラッシュアップを行なう。先生方からは「その根拠は何?」という、もっともな突っ込みから「そもそもそのテーマやる意味あるの?」という身も蓋もない指摘まで出る「知的コロシアム」である。「オリジナリティを!」、「論文の意義は?」、「分析の枠組みは?」という先生方からの注意点は報道の仕事にも共通するものがあり、まるで会社の上司に怒られているような気分になってくるのが不思議であった。

当然、先生方との距離は近い。学生用研究室の隣には教官の研究室が集まる建物があり、フラッと研究室を訪れることができる。「良い参考文献はないか」、「資料収集はどうやったらいいか」などなど気軽に(?)防衛大学校の抱える頭脳の知恵や知識の助けを借りられる恩恵を十二分に享受した。指導教授の先生の部屋に2時間、3時間と入り浸って研究のこと、論文のこと、米国や日本の政治の話をする時間が何よりの楽しみであり刺激であった。

2年目は業務をこなしながらの論文執筆となり、業務と論文の両立で苦しんだ時期もあった。しかし同期をはじめ素晴らしい人たちと議論し、一生の恩師と呼べる先生の厳しくも暖かい指導のおかげで納得のいく修士論文を書き上げることができた。

勉強し、テーマを見つけ、論文を書くことは自分だけの責任による孤独な作業だ。そのため、この学究の2年間をどれだけ充実したものにできるかはすべて自分次第である。自ら求め、考え、行動すれば、きっと充実した2年間にできる体制が安保研には整っている。あとはそれを学生一人一人がどう活用するか、だけである。

1997年3月、上智大学法学部卒業。同年、テレビ朝日入社。社会部にて東京地検、神奈川県警を担当後、政治部に。防衛庁、官房長官、民主党担当を経て社費派遣により総合安全保障研究科(2006年〜2008年)。現在、政治部で民主党を担当。

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