卒業生からのメッセージ

〜 更なる高みへ 〜

総合安全保障研究科 後期課程 
 佐藤一也 第16期卒業(国際安全保障コース)

大学までの受験勉強において、手に取った問題集には必ず解答が付いていました。そして、その問題集を自力で解き、解答と合っていたときの嬉しさは今でも覚えています。ただ、任官後の実務を通じて思い知らされたことは「世界には常に解答があるとは限らない」ということでした。

日々見聞きする世界中の新聞やニュースの大半は、国家や武装勢力または企業などの間の紛争問題です。これらの問題が報じられるのは、それらが自分らにとって現在または将来の脅威となるからでしょう。これらの問題に対し、各分野の専門家が意見を寄せますが、その意見が対立することもしばしば見受けられます。私は、安全保障を担う自衛官の一人として、その意見をただ拝聴するだけでよいとは思いませんでした。対立する意見において、自分はどちらに理があると評価するのか、それが出来るようになるにはどうすればよいのか。並大抵ではないこととは知りつつも、これらの問いに対して、より科学的に自分なりの解答を見つけることが、私が総合安全保障研究科(以下「安保研」という。)を志望した動機でした。

安保研に入った私は、内戦に関するテーマを選択しました。その理由は、近年の世界の武力紛争のほとんどが内戦であり、その内戦が及ぼす国内外への影響は大きいと認識したからでした。ただ、内戦という現象は複雑であり、どのような問題に焦点を当てるのかに苦しみました。問題を設定した後も、分析対象となる事例の通史の勉強に時間がかかり、その解答の導出方法もうまく案出できず悶々とする日々が続きました。さらに、安保研名物科目(?)のPJもありました。PJとは、月に一度の複数教官による集中試問のことです。よりよい論文にするために発せられる教官たちからの鋭い質問に対して、答えきれず思考が空回りする自分に落ち込むこともありました。

そんな産みの苦しみがある一方で、自分の論理が次第に形成されていく充実感もありました。内戦という数式では表わし難い社会現象の発生に対し、冷徹な思考と論理による説明に挑みました。そして、もちろん十分なものではありませんが、自分なりの解答を得られたときの達成感は心地よいものでした。こうして一歩でも半歩でも前に進んで行けたのは、指導教官の親身なご指導と安保研の同期の仲間との心温まる交流のお陰だったと思います。

「解答がない問題を探求し、その問題の解答を探求する」という機会をこの安保研で得られたことは、これからの自分の考え方を確立する上で貴重なことでした。安保研を希望される幹部自衛官や民間の方々は、是非、入学されて自分が生きる世界を観察し説明するための基礎を得ることをお勧め致します。

探求の先にある解答は一つとは限りません。複雑で再現性が乏しい社会現象を説明するという更なる高みを目指して。

 





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