卒業生からのメッセージ

「2年間を振り返って」

 
 長谷川悌 3等海佐  第23期卒業 (戦略科学コース)

総合安全保障研究科での2年間の生活を端的に言えば、気付きに溢れた日々であり、また修士論文を書き上げられた瞬間の喜びの中にも、そして思うように筆が進まず、論文を書き上げられるのかという苦しみの中にさえ、充実感を得られた有意義な日々であったと言えます。

総合安全保障研究科の1年目は、ゼミ形式での授業が中心となります。政軍関係、国際秩序、国際法等について、学生は多くの課題を読み、レジュメを作成し、授業に臨みます。授業では高い専門性を持った教官のもとで、テーマについて学生が自由に議論を行いますが、同期生の発言には「よくそんなことを知っているな」とその知識量に感心させられたり、教官の一言に「ああ、そうだったのか」と気付かされることが多々ありました。私にとっては、課題の読み込みによって断片的に得た情報や知識が、授業によって結びつくという学びを得られた非常に興味深く、新鮮な時間でした。

総合安全保障研究科での2年目は、学生の最終目標である修士論文の提出に向けた執筆が中心となります。私の研究では、アンケートとインタビューで集めたデータを分析し、何がそうした結果をもたらした要因になるのかを明らかにする必要がありました。データの分析や執筆自体は、孤独な作業となりますが、教官からのご指導や同期学生との何気ない会話は執筆においても非常に重要なものでした。というのもそうした会話の中にも「ああ、そうだったのか」との気付きがあり、それにより、数時間、時には数日間悩んでいた一文を紡ぎ出することができたという経験が多々あったためです。特に、大量のデータを集めたのもの、それらを分析し、文章にしなければならないという困難さの意味をおぼろげながら理解した際は、本当に論文を書き上げられるのだろうかと暗澹たる思いにとらわれましたが、指導教官から頂いた「長谷川さんが集めたこのデータは、世の中にここにしかないんです。それを長谷川さんがどう解釈するのかが重要なんです」との言葉は、分析、執筆が行き詰るたび、私の頭の中に浮かび上がり「ああ、そうなのか」と、再びパソコンの画面に立ち向かう気力を与えてくれるものとなりました。なぜそのような心境になったのか。今、冷静にそのことを振り返れば、おそらく次のようなことなのだろうと思います。

「アインシュタインの相対性理論のような自然科学とは異なり、社会科学系の学問で、これが社会現象についての絶対的な真理であるとされている理論は存在しない。社会科学の分野で唱えられている理論は、この様な枠組みであれば世の現象を良く整理できる、これまでのデータを踏まえるとこういうことが言えるという仮説なのだ。だから、自分はここにしかないデータを自分なりに解釈すればよいのだ」

開き直りのようにも思えますが、指導教官からのこの言葉は私にとって救いであり、この一言があったからこそ、私は修士論文を書き上げられたと今でも思っています。

最後に、総合安全保障研究科での2年間はかけがいのない充実した時間であったと思います。しかし、これは私の解釈、つまり仮説です。仮説である以上、それは事実と照らし合わせ、検証される必要があります。総合安全保障研究科を目指す皆さんには、私の仮説が正しいか、どの程度で正しいのかを、ぜひ実際に検証していただきたいと思います。皆さんがそれぞれの目標を持ち、同研究科で有意義な2年間を過ごされることを祈念しています。

 


≫卒業生からのメッセージ一覧へ


日本最大の研究教育拠点