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防衛大学校 応用化学科 応用物理化学研究室

CIW留学記

CIW留学記 〜第7回遅ればせながら研究室紹介。〜

 今回は遅ればせながらカーネギー研の我々高圧グループの研究内容をご紹介させて頂きます。我々のグループ(ラスファミリー;ボスがラッセルという名前ということから)の特徴は、高圧力をツール(パラメータ)の一つとして用いた、多重極限下(例えば高圧+強磁場、極低温、超高温etc.)の実験ということができます。そこで、我々のグループからここ半年くらいにpublishされた論文の中から、目立ったものをいくつかピックアップして、その内容をご紹介することで研究室紹介に換えさせて頂きます。

(1)"Hydrogen clusters in clathrate hydrate", Wendy L. Mao, et al., Science, Vol. 297, 2247 (2002).
 これらガスハイドレート(気体包摂化合物:水分子で構成されたかご型構造(ホスト)の中にゲスト分子が入って安定する)の研究は、ご承知のように'60年代後半から'70代初めにかけて、石油や天然ガスの輸送パイプラインが詰まるという事故が相次いだことから、研究が盛んになされていた時期があります。
 最近また、地球環境問題やエネルギー資源問題の鍵を握る物質の一つとして、このガスハイドレートがブームになりつつあります。特に、二酸化炭素の深海隔離や深海底地中のメタンハイドレートの採掘技術開発などにおいて重要な役割が期待されているようです。
 この論文は基礎研究として、水素包摂ハイドレートにおける新しいタイプの構造や色々なPTでの安定性を調べたものです。主な発見は、水素包摂ハイドレートに従来にはないタイプの構造があることを示した事です。つまり、小さなケージ(かご)に2つの水素分子が入ったものと、大きなケージに4つの水素分子が入る2種類の包摂化合物ができることです。(multiple occupancyと呼ぶそうです。これまではsingle occupancyのものしか見つかっていなかったとのこと)

(2)"Superconductivity in Dense Lithium", Victor V. Struzhkin, et al., Science, Vol. 298, 1213, (2002).
 酸化物超伝導体やヘビーフェルミオン系物質に代表される強相関電子系物質の分野では、これまでに精力的に研究が進めたれてきたことは記憶に新しいところです。
 これらの物質は一般的に大きな圧力効果を示すことが知られており、銅酸化物や強磁性物質(UGe2)の圧力誘起超伝導、ヨウ素酸素などの分子性結晶の金属化と超伝導、有機導体の圧力効果などが報告されています。このような背景のもとで、この論文では最も単純な金属であるリチウムについて超高圧での超伝導が調べられました。これまでに、常圧ではリチウムは超伝導の兆候は示さないことが知られていますが、超高圧下ではbccから別の構造へと変化し、それに伴い超伝導を示すことが予測されていました。
 実験結果から、23GPa(万気圧)から80 GPaの間で確かに超伝導を示すことが発見され、しかもTcの圧力依存性から複数の相転移の存在があることが示されました。この研究での最終的なゴールは、周期表の出来るだけ多くの元素で(高圧力下)超伝導を発見することだそうです。

(3)"Microbial activity at gigapascal pressures", Anurag Sharma, et al., Science, Vol. 295,1514(2002).
 この研究は少し異色なのですがおもしろいのでご紹介します。
深海に熱水孔があり、そこから湧き出してくる熱水の中にバクテリアの微生物等の存在が確認されており、これがもしかすると生命の起源ではないかという議論があります。このような背景のもとで、この研究では2,3の微生物について、このような極限環境におかれた場合の生理及び代謝活性(生存性)が調べられました。
 その結果、1.2から1.6 GPa(万気圧)という非常に高い圧力でも、これらの微生物が耐えうる(生存できる)ことが示されました。しかも、この圧力領域では水は氷VI相(貫入格子構造)になるにもかかわらず、その隙間の流動相に入って生き延びているとのこと。また、この状態から圧力を一気圧に戻しても生存し続けることが分かりました。 
 このことは、圧力が必ずしも生命に対しての大きな障害にはならないこと、故に例えば厚い氷中(地球の極にあるものを含めて、ユウロパやガニメデ等の水と氷の深い層等など)でも生命の存在の可能性を否定するものではないということを示唆しています。
 
(4)Raman spectroscopy of hot dense hydrogen, Eugene Gregoryanz, et al., Phys. Rev. Lett., Vo.90, 175701-1(2003).
 これまでに、理論的な研究から水素の金属化が260から410GPa(万気圧)の間で起きるとの予想がされており、今最もアクティブな研究領域の一つです。水素の金属化が本当におきるのかどうかは依然として不明ですが、水素の超高圧化での相挙動はまだ良く知られておらず、色々なpTで実験をする必要があります。この研究では、これまでの静的圧力実験では到達できなかった、温度1100K及び70GPa(solid hydrogen領域)以上、650K及び150 GPa(fluid hydrogen)以上での実験に成功し、そのmelting curveを拡張(圧力領域で4桁)することができたことを報告しています。ちなみに、低温(20から140 K)でのsolid hydrogenの研究も同じ著者らによって既に行なわれており、圧力285 GPaまでのラマン分光測定がされております。この結果からは、水素の金属化の証拠は得られなかったとのことです。ただバンドギャップの外挿から325-385GPaあたりで金属化が起こるのでは?ということです。
 その後、つい最近に、300GPa付近で水素が金属化の兆候として、赤黒い色を見せたという報告がなされました。ただし、現在の装置で300 GPa(万気圧)というのが到達できるほぼ最大の静的圧力であるために、それ以上の実験的な研究が進めることが出来ないでいます。また、窒素についても同様な研究が行なわれていて、それによると室温で150GPa以上の圧力をかけると、アモルファス相に転移するそうです。

最後に、少しだけ私の研究についても触れさせていただきます。
ここでのテーマの一つは、既にご紹介しましたように色々なPTでの氷の相挙動の研究です。氷の研究分野で現在アクティブな領域の一つは、氷VII’相についてです。氷VIIは、本来は275 K及び2.2 GPa以上の領域で生成し、水分子の酸素がほぼ体心立法構造をしています。
 一つの水分子はこの体心立法構造8配位のうちの半分の水分子と4配位の結合することから2つのダイヤモンド構造がそれぞれの隙間に貫入しあう構造をとります。
 氷VII’は、基本構造は氷VII層と同じであるとされていますが、本来の安定生成領域とは異なる所でも生成することが発見され、区別するためにVII’(セブンプライム)と呼ばれています。私は本当に氷VII’の相挙動が氷VII同じであるか疑問に思い、色々なpTで調べることにしました。
 氷VIIについては、地球科学の観点からも重要で、別の興味から(”373K以上の熱い氷”)研究をしているポスドクの人もおられます。。

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