

2025年8月26日、令和7年度第1回セミナー「ロシア・ウクライナ戦争をめぐる抑止の課題」が実施されました。このセミナーは、ロシア・ウクライナ戦争が提起している抑止の課題を多角的に検討するため、地政学・戦略論を専門とする多摩大学大学院客員教授の奥山真司氏、ロシアの外交・安全保障を専門とする防衛大学校総合教育学群の岡田美保氏の報告に対し、航空自衛隊幹部学校航空研究センターの佐久間一修1等空佐が作戦・実務の観点から、航空自衛隊幹部学校航空研究センターの田代明彦1等空佐が現地経験・実務の観点から討論に立ち、パネル・ディスカッション形式で行われました。まず、抑止の起源・定義を確認したうえで、脅しを通じて戦略目的を達成しようとする抑止には、懐疑論も根強く存在していることが指摘されました。 また、核兵器の登場後、米国を中心に進展した抑止論では、いかに武力を行使せずに戦略目的を達成するかに関心が寄せられてきたが、ロシアでは、抑止政策の立案において武力行使は排除されておらず、先んじて行動することによって有利な戦略環境を形成しようとする発想があることが指摘されました。さらに、抑止による脅しを相手がどのように受け取って対応するかという、戦略的コミュニケーションの問題に十分な注意が払われていないのではないか、との問題提起がなされ、誰が何を抑止しようとしているのか、明確にして議論することが抑止の有効性につながるとも指摘されました。 開戦前後の主要アクターの動きは、ロシアの侵略を阻止するという観点から適確な発信であったとは言い難く、相手が行動に出る前に、軍事だけではなく外交・経済を含めた戦略的コミュニケーションを行うことの重要性も指摘されました。 そのために、相手国の思考・行動特性、他国の言動の受け止め方をよく知ることが不可欠である等、抑止を有効なものとするための指針が数多く示されたセミナーとなりました。